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杯ノ三十

 青年は未だ震えの収まらない脚を力任せに叩いた。それでも、竦み上がった青年の脚は、橋脚の列に加わろうとするかの様に思い通りには成らない。

 青年は太腿(ふともも)の表面を虫が這いまわるような、ビリビリとした痛みに苛立ちを募らせながら…、

(ここに何をしに来たのかを…俺が何の為にここまで脚を休ませなかったのかを…忘れてんじゃねぇよ。)

と、青年は膝に手を宛がったまま、四股(しこ)を踏む様に、高く上げた右足で地面を踏み(なら)す。今度は、左足を同じ様に引っ張り上げてから、力一杯大地を踏み付けた。

 青年が渾身の力で地を踏み鳴らした音は、背景で止めどなく流れ続ける滝の響きにかき消されていった。

 そしてどうやら、青年の身震いさえも、両の足首に残る淡い痛みが消し飛ばしてくれたようだ。

 青年は深く息を吸い込むと、腹に溜まった空気の浮力を利用する様に、軽やかな足取りで庭の反対側へ…まだ説明のしていなかった残りの一方へと移動する。

 樹皮の白く腐り、葉を(しげ)らせる余力すら感じられない松の枝を潜って、青年は庭園側の縁側の奥まで進んで、

「んっ。」

と、青年は何かに気付いた様に鼻を鳴らすと…ゆっくりと腹に溜まった空気を吐き出してから…言葉を次ぐ。

 「なんだよ、これ…。」

 わざわざ、こんな言葉を言う為に息を整えたところを見ると、青年は相当に興のそそられる何かを見つけたようだな。

 青年が口を半開きにしたままで、懐中電灯のスイッチを入れる。…丁度いい、我々も青年の目線にそって、かくも青年を唖然とさせた、その『何か』の見物と洒落込もうでは無いか…。

 右手に握り締められた懐中電灯の光が、庭園の奥…行く手を遮る、滑らかな岩肌を撫でた。

 杯ノ三十を読んでやってくださって、ありがとうございました(^v^)

 そして今回は、もう一つ皆様にお礼を申し上げるべきことがございます。

 なんと、毎日休むことなく更新を続けてきた『貴女を啜る日々』も、投稿を開始してから丸一ヶ月。

 それだけの期間を経る原動力と(勝手ながら)成っていただいた読者さま方には、本当に感謝の言葉もございません。…目標の吸血鬼も未登場で、感謝だけ文字にするというのもアレですからね…。

 そいう事ですので感謝の気持ちは、まずもって、吸血鬼を登場させるまで更新を滞らせないこと…そして投稿する文章にて伝えさせて頂くことにします。まっ、元々、それ以外の方法もないんですけど(^v^)

 では、多少押しつけがましくもありますが…感謝の気持ちの籠った、次の梟小路の文章でお会いいたしましょう。

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