杯ノ三
リュックサックの絞りきれていない口からは、ハンマーの柄と同じ位の長さの円柱形の木片が…まるで、突き刺さったかのように…顔を覗かせていた。
湿った泥と、この木片の表面を伝う水滴で、リュックサックの中は惨憺たるありさまであろう。
しかし、青年にはそんな事を心配する様な心のゆとりは無い。…否、そうでは無い。むしろ逆なのかも知れないな…。
ポタポタと雨垂れにレインコートの首筋を叩かれながら、門を潜る青年の心音は徐々に平静を取り戻しつつあったからだ。
それは青年が、見るからに高級そうな一対の一枚板で出来た扉を、力任せに蹴飛ばした時にも変わらなかった。
そんな青年のどこか捨て鉢な気持ちに屈したように、か弱い音を漏らして…錆び付いた蝶番だろうか…金属片が石造りの床を打つ。それを合図に、音も無く、味の濃い焦げ茶色の一枚板に意匠を施した扉の片方が、玄関ホールの中へと倒れ込んだ。…どうやら、内開きだったようだな…。
雷光がどこかの窓から、洋館の中をなめる様に照らし出す。
舞い落ち、降り募る埃。そしてその先…青年の正面、玄関ホールから目と鼻の距離には、恰も、天国へと続く回廊を思わせるような…低く、天井の闇の垂れこめる大階段が目に映る…。
青年はレインコートの裾をたくし上げると、滑る右手でジーンズのポケットに突っ込んであった懐中電灯を引っ張り出した。
ペンライト程の大きさのそれだったが、光源として十分に役に立ってくれそうだ。一歩も洋館の中へと足を踏み入れていない状態でも、こうして…ここを一度として訪れた事の無い青年に、記憶を…青年の父親が彼に、話して聞かせた記憶を呼び起させるのには十二分だった。
二日続けての、ぴたり七百字での投稿。ムフフッ、梟小路、絶好調(^v^)…とか、悦に入っているのは良いんですが…三話目にして未だ、吸血鬼でねぇ。女っ気ねぇ。主人公と思しき青年の名前すらまだ書いてねぇ。
…っと、現状、ろくな体裁すら整っていない本作ですが、次話も読んでやって下さいな。




