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杯ノ二十九

 その青白い月の下。山間(やまあい)には、青年が居たはずの洋館らしき建物が(そび)え立ち…その洋館からはこちらの和室へ向けて、45度ほど急傾斜の付いた、例の階段回廊が伸びているという状態なのだ。

 つまりは、あちらの洋館と、こちらの日本家屋では、回廊で繋がってはいるものの、独立した別個の建造物と言う事に成る訳だ。

 しかしながら…実際、これらは正気の沙汰で作り出した建築物とは思えないよなぁ…。

 洋館と、日本家屋を、暗黙の通路で繋いでいる階段回廊のおおよその長さは、7、80メートルと言ったところか…青年が呼吸の仕方を忘れるほど酷い酸欠状態になるのも、十分に頷ける距離という訳だ。

 そして、そんな人間様向きでは無い渡り廊下における、極め付けに酔狂に過ぎる点と言えば、あの階段回廊を支えるか細い『橋脚』であろう。

 そうなのだ。あの階段回廊だとて何も吊り橋ではない。だから勿論の事、自重で崩れ落ちてしまわぬ様に、回廊の底部からは5、6メートル置きの間隔で、剥き出しの山肌へと支柱が伸びているという次第なのだが…繰り返して言おう、その橋脚がとんでもなく細いのである。

 見たところ、どうやら金属で出来ている様ではあるものの…それらの一本一本には、遠目にも女性の脚ほどの太さしか無い。

 そんな心もとない何本かの脚によってのみ、明らかに、あの階段回廊は支えられているのだ。…そうとは、まだ乾ききらぬ襟足の汗粒ほどにも気付かなかった青年にしてみれば…今更ながらに、生きた心地とやらが足元から崩れさる感覚に囚われたとしても不思議はないだろう…。

 薄氷を延々と踏みつけ続けている様な、靴底一枚下にあるゴワゴワとした何かが纏わりつく感触。

 本日は杯ノ二十九を投稿。そしてこれで、『貴女を啜る日々』の総文字数も二万を超えたことになります。

 早かった様な、やっとなのかとも思わなくもなかったり…しかし、まぁ…我ながらよく続くものだと言う思いが、一番でしょうかね。特にこの、必ず『後書き』を小説本文に添えている所とか…。

 それもこれも、毎度、読んでやって下さっている皆様のお陰です。一話読んで下さった方の為に、次の一話を書く。それが梟小路の原動力となって居ります。

 …それではまた、ここまで目を通して下さった貴方の為に、明日も早起きで執筆に勤しむとしましょう。

 一読、ありがとうございました(^v^)

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