杯ノ二百八十一
自分の子供染みた悪戯心が、何かこう、あらぬ方向へと驀進し始めている。静馬も、その妙な雰囲気を察して、
「いや、そんな、覚悟とか…そんな深読みしてもらう程のことじゃあ。」
と、完全に腰砕けな状態と成っている。
そう言った具合で、ガキっぽい対応を徹し切れなかった、静馬。だがしかし…彼に向けられた童女の瞳の輝きは、衰えを知らない…。
「ううん、良いの。変な遠慮はしないでちょうだい。…確かに、そうだわ。本当に、静馬君の言う通りね。静馬君に生きてもらう…。そればかりを考えるあまり、私はその後の事を見ようとして居なかった。」
「おいおい、何を浸り切った声を出して、話を好き勝手な方へ運ぼうとしているんだよ。第一、遠慮なんて…その発想の時点から、こっち言いたい事とはズレているんだが…。」
「そうか…うん、そうよね。これから静馬君と一緒に暮らすのなら、遠慮だなんて、そんな詰まらない事を気にすること自体、『ズレている』。まったく、その通りだわ。」
「だから、そうじゃなくて…って、えっ…。もしも俺が生きる方を選んだ場合、俺はあんたと一緒に暮らす事に成るのか。いつ決めたよ、そんな話。」
そう尋ねられて、可愛らしい紫の瞳が暗闇の中、コロンッと、左に傾いだ。
童女はきっと、幼い容貌の魅力を最大限活用し、首を傾げて居る。
この暗闇では、その仕草を鑑賞できない。それを残念がりつつ、色んな意味で『曲りなり』にも、思い返そうと努力して居る事だけは、殊勝だと考えるべきか。それとも、彼の与り知らぬところで随分と、『我が道』を進んでいた彼女に、眉をひそめるべきか…。
どちらにしても、静馬の眉間に皺が寄せられる。




