杯ノ二十七
青年はそう頭の中で呟きながら、畳の上を…滝壺の裏手の方へと回った。そこには、月光を遮る屋根の影に圧し潰された様な、暗い日本庭園がある…。
青年はその庭園の前で足を止めると、ぼんやりと、降り積もった黒い雪に覆われた様な景観を一望した。
(幾ら月明かりをここまで遮れるとしても…朧気に物の形が見てとれる以上は、昼間に吸血鬼が闊歩するにはそぐわない…。)
と、青年は自分の言葉の間抜けさに気付いたようだ。懐中電灯を握った右手の親指で後頭部を掻きながら、皮肉そうに口の端を持ち上げて笑う。
(まっ、俺が鵜呑みにしてこんな山奥くんだりまで来る気になった、親父の話が全部本当の事だとしたら…だな。)
青年は頭を掻いていた右手を、ボリボリッとやりながら首筋の辺りまで下ろした。…意地を張ってレインコートを羽織り続けていたのだから、蒸れるのは当然だろう…。
そんな肌を掻きむしる実に惚けた表情のままで、青年は両足飛びで縁側から飛び降りる。湿った土を踏む感触が、泥の上を歩むのとはまた違った生々しさとして、足の裏へとせり上がってきた。
青年は思いがけない地面の固さに身体をぐらつかせながら、背中を掻き掻き、庭の右手を見る。すると…不意打ちの驚きに、青年の右手が懐中電灯を取り落とした…。
それでは、青年が見上げた何かに目を奪われ、地面の頑なさに足を竦ませている間に、この和室に付いて説明を加えさせて頂こうと思う。
青年が今居る日本庭園。その裏手に滝壺があるのは前述の通り。詰まり、青年は畳の上を突っ切って反対側の縁側まで移動した事に成る。
これで、この和室の見取り図を描く上での、二か所の外枠がそれぞれ埋まる。
杯ノ二十七、更新完了。…そんな、平日の小説投稿を乗り切った、土曜日の朝のまどろみに思うのは…一話に付き700文字以内と決め込んで、本気で正解だったな…その一事に尽きますわい。
前もどこぞで書きましたが、これがもし1000字以内とかだったりしたら…どうせ意地に成って1000字ぴったりで投稿しようとしたろうし、後書きも頑固に書き続けたろうから…確実に更新が滞っていたでしょうね。
本当、しみじみと、700字という塩梅の絶妙さがあればこそですよ。…まっ、小説の内容の塩加減に、700字以内という制約がどんな舌触りを生み出しているか…その具合は定かではありませんけど…。
ちょうど腹も減ってきましたし今日はこのくらいにしましょうか。
皆さま今回も、一読、ありがとうございました(^v^)




