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杯ノ二百五十四

 静馬の手が冷え切っているのは、確かな事。

 しかし、童女の頬が覚える、この火傷の様な痛みの感触は…彼女の頬が羞恥によって、それだけ血の気を増している…端的に言えば、『恥じらいで、頬っぺたが赤く成っている』と言う訳だ。

 そうして硬直しながらも、おたついて余計な事を喋らなくて良い分、『口を挟まない』と約束した過去の自分に、童女が感謝し出した頃。静馬が…童女の頬を(つね)った。

 「そんな物騒なのを口から出していると、可愛い顔が台無しだろ。」

 そう言いながら静馬の手は…んっ、これどうも、童女の頬を抓っているのとは違うな…。

 彼はどうやら、頬を引っ張り上げって、彼女の牙を仕舞わせようとしているらしい。

 不意打ちの様に訪れた静馬の優しい言葉と、頭へ登った血。そのダブルパンチで童女は、くらくらと、目眩(めまい)にも似た感覚に囚われながら…だが、このまま良い様に頬を(もてあそ)ばれるのは、頂けない。年長者としても、女としても…。

 童女は丁重に、かつ断固として、静馬の手首を掴む。そうして、自分の一声も無い要請に、彼の指が頬を放したのを…結構、痛かったのだろうな…瞳を動かし、確認。その後、静馬の腕を放した。

 まだまだ、筋力の回復が不十分だったのであろう。

 童女が手を放すと、彼の腕は崩れ落ちる様に急降下。そうして、パチンッと、掌が固い石舞台を叩く音。 

 その痛々しい音からそっぽを向いて、童女は…ジンジンと(うず)く、頬を見せつけながら…おあいこだと鼻息を漏らした。

 「俺と同じで、母さんにも…あんたに対して、思うところは有ったと思う。けど、そんな理由から、母さんは俺に手を上げた訳じゃない。そう俺の方が、断ったのにな…。」

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