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杯ノ二十五

 この程度の傾斜で有れば、這い上がる事もそう難しい事では無いのではなかろうか…。

 滝壺のうねりから跳ね上がった飛沫(しぶき)が、また、上向いた青年の顔へと掛る。今更ながらに、この水滴は雨粒よりもなお、冷たい。

 …っと、青年は何を思ったのか、汗だくになりながらも、ここまで頑なに羽織り続けてきたレインコートを脱ぎ始める。

 リュックサックのアーム部分から左腕を引き抜きつつ、右手ではレインコートの襟元のホックを外す。 青年が千切れんばかりに握りしめていた胸元は、ビニールが白く変色し、さながら醜怪(しゅうかい)なできものの様に見えた。

 そんなくたびれ果てたレインコートを脱ぐのにすら、溜息がちに四苦八苦しているのは…青年のこのレインコートへの未練の表れか。雨も上がったというのに、どうしてそんなにもレインコートに御執心なのだろう…。

 青年は袖を引っ張りながら、胡坐をかいた両足をぐらつかせながらして、どうにか、レインコートに通した腕を引き抜く事が出来たようだ。

 今までが、この一枚の為に蒸し風呂の様な状態だったのだ。それを脱ぎ去ってしまうと途端に、身体中の汗が青年の体温を奪っていく。

 青年は誰が見ているでもあるまいに、口元を右腕に押し付けて、大きなくしゃみで一拍。

 それから今度は、曲げた肘を真っ直ぐに伸ばすと…青年は、縁側すれすれ吹き抜ける風任せに、はためくレインコートを滝壺へと投じた。

 ガバッと胸襟を開いた半透明のレインコートは、青年の視線の糸に繋がれた凧の様に月夜を舞う。そして、跳ね上がる水滴に絡め取られる様に滝壺へと落ちていった。

 するとどうだろう…河童の異名を持つそれが、泳ぐ事も叶わずにもがいているではないか。

 『貴女を啜る日々 杯ノ二十五』にお目を止めて下さり、ありがとうございます。その上、後書きにまで目を遣って下さるとは…この梟小路、感謝感激雨霰でございまする(^v^)

 …っと、その辺りの事にはろくにお礼をさせて頂いていなかった様なので、この場を借りましての一言でした。

 あと、それから…取って付けた様な話の運び方で恐縮ですが…この小説を『お気に入り登録』して下さった皆様、本当に、ありがとうございました。…あんた等の為なら、梟小路は睡眠時間をかき氷機に掛けても惜しくは無いぜ…と言う心境になっております。まっ、寝ぼけて居るというこってすわ。

 ではでは、本気で睡眠時間が淡雪と溶けてしまう前に、本日はこの辺で…明日も、梟小路の削り出す物語でお会い致しましょう。

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