杯ノ二百四十二
種明かしが終われば面白くもない…そう悪態を吐く様に、静馬は鼻を鳴らす。
「あぁ、催眠術…暗示の類ね…。器用だな。」
別段、何かを期待して居た訳でもあるまいに…この反応。
童女も、カチンッと来たらしく、口角を吊り上げ牙を見せると、
「そっ、そう言った類よ。何だったら、試しに…さっきの私との口付が、静馬君のファーストキスだったかどうか…催眠術で聞いてみましょうか。」
そんな童女の申し出を耳にして、しち面倒くさそうに、彼女の顔から目線を反らしていた静馬は…瞳を、端正な美形へと戻した…。
「そんな事より、あんたが催眠術師だから…それが一体、どうして俺の得に成る。良い事ってのは、どう言う意味なんだ。」
淡々と、落ち着き払って促す、静馬。しかしながら…今しがたまで息も絶え絶え、ろれつも回らなかった奴が…逆に、気を引き締め直したのが、バレバレだな。
童女はそれにご満悦の笑顔を浮かべ、そして、静馬の質問に答える。
「眠っている私の身体から発散された、気体。勿論、それが何なのかは、学の無い私には知る由もない。けれど、それを吸い込んだままで、静馬君を放って置いたなら…どうなったか…。その先に起きる事を、私はよく知っているわ。」
静馬の耳を離れない、苛烈な心臓の音。童女の声は韻を踏むかの様に、その脈動を追いかけ、追い越し、淡々と進んだ。
そんな彼女の語調に耐え切れなかったのか、あるいは、自分の心臓のリズムに焦れたのか…静馬が皮肉っぽい声で、横槍を入れる。
「まさか、ゾンビに成る…とか、言うんじゃないだろうな。」
「あらまぁ、随分と勘が良いのね。それじゃあ…自分がさっきまでゾンビだった事にも、気付いて居るのかしら…。」




