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杯ノ二十四

 足元を良く見れば、奇妙な事に…よほど日の光が差し込まなかったのか、それとも、この館を包むある種の魔力の様なものの所為か…埃に(まみ)れては居ても、畳はまったくと言って良いほど日焼けをしていなかった。

 しかし、青年はここまでの道程で、不気味な手合いには散々出くわしてきたのだ。まだ青々とした井草には何の反応も示さずに、畳を踏み越えて、板敷きの床の上…そしてその場でドカリッと胡坐をかいた。

 そこはどうやら、この和室の縁側だったらしい。ここに腰を落とせば、しぶきが掛りそうな距離で滝の音を堪能しながら、連なる山々の峰をかすめる白月に風流心を満たす事が出来るという寸法だろう。

 しかしながら、青年がこの縁側に座り込んだのは、何もその様な風雅(ふうが)(おもむき)に浸りたかった訳ではなさそうだ…。

 青年が胡坐をかいた両膝を鷲掴みにして、身体を前方に折り曲げながら大息を吐く。

 (命拾いしたな…本気で…。)

 撫でおろされた肩から、リュックサックが左肘まで滑り落ちた。革の底が縁側の敷き板に当たった音の感触からすると…青年の滝壺へのタイブに待ったを掛けた木の棒以外にも、何やら色々と中に仕込まれているようだな…。

 それにしても、青年の物言いの、『命拾い』とは些か大げさでは無かろうか。

 それはこんな、雲間から満身をさらけ出した、丸い月の明かりをもってしても水底が見通せない様な滝壺だ…落ちれば、ずぶ濡れになるのは間違い無かろう。

 だが、滝壺から縁側までの高さは、どう見積もっても2メートルには及ばない。せいぜいが、平均的な大人一人分と言った塩梅だ。

 それに加えて、滝壺の縁の岩場は、まるで、盃をはめ込んだ様になだらかなのだ。

 いやぁ、遂に滝まで出て参りました…即興小説、恐るべしですわ。

 もしかしたら、この先の物語の展開を一番読めていないのは、梟小路自身かも知れませんね。…意識して考えない様にもしています故…。

 さて、それじゃあ…続きを夢に見ない事だけは注意して…また明日の朝早起きして執筆するためにも、そろそろお暇させて頂きましょうか。

 皆さま、杯ノ二十四も一読、ありがとうございました(^v^)

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