杯ノ二百二
「それで…貴女のご所望は寝物語だったよな…。どんな話が好いんだ。」
「そうねぇ…。そう言われると、何から聞いて良いのか…。」
身体をゆったりと小揺るぎさせ、揺り籠に眠る赤子にそうする様に、静馬を安楽な眠りの縁へと誘う。童女は無意識にそうしながら、どこか疲れと、睡魔の感じられる声で呟く。
「静馬君の事は追々に聞かせて貰うとして…貴方は何か、私に聞きたい事はないのかしら…。」
と、そう尋ね返された静馬は…吐息に擦れた語気で、うっとりと…、
「じゃあ…。貴女は…今の俺みたいに…親父にもひざ…。」
「そう言う質問は受け付けません。私と勇雄の事を聞くのは構わないけれど、目上の女性に物を訪ねるのだから、慎みは持ちなさい。例え、それが今わの際であってもね。」
童女のきっぱりとした口調が、静馬の言葉を遮った。
薄目を開け、やや不愉快そうに童女を見上げる。そのそっぽ向いた頑な横顔を見るに付け…ここでゴネて、他に聞いておきたい事まで聞けずに天命を真っ当するのは不味い…静馬はそう思い直した様だ。
この質問は断腸の思いで切り捨てて、静馬は新しい疑問に考えを巡らせ始める。
「それなら…親父の事を聞こうかな…。」
「どうぞ、どうぞ。何でも聞いてちょうだい。」
と、今度の質問の趣向には、童女も前向きに…否、下向きに静馬へと瞳を下ろす。
如何にも夜目の利きそうな、紫色の猫目が細く成る。その様を見つめ返しながら、静馬は張り付いた上唇と、下唇を離した。
「じゃあ、改めて一つ目の質問。俺の親父って…もしかして、ロリコンだったんですか…。」
静馬の発した言葉に、ググッと、見開く童女のお目目。しかし、その後が続かない。




