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杯ノ二百一

 童女はさも面映(おもは)ゆそうに、顔を逸らし、唇を真一文字に結ぶ。しかし、彼の頭を太腿へと導いたのが自分だった事を思い出してか、

「いいでしょう、これ位は…。だいたい、目の前に座って居る人に、前触れなくぽっくり逝かれたら…そんなの私、困るもの…。けれど、こうして居れば…私には、貴方がいつ泉下に旅立つのか、それが肌で伝わるのだし…それに…それに…。」

 か細い呟いた重みに、冷たい手が静馬の頬から剥がれ落ちていく。力無く両腕を石舞台へと垂らして、童女は伏せられた紫色の瞳を潤ませた。

 「それに…勇雄(いさお)の息子を…こんな冷たい石の上で、座らせたまま死なせるなんて…私には出来ないわ。静馬(しずま)君…貴方が私を傷つけた事を、気に病んでくれているのなら…どうか、私の思う通りにさせてちょうだいな…どうか、このままで、貴方の事を見取らせて下さい。」

 そう言うと童女は、静馬の答えを待たず、抱き(かか)える様に両腕を彼の首に()わせる。重ねられた両手は、頼りない心臓の鼓動を助かる様に、彼の胸の上…。

 静馬はその小さな掌の重みを受け入れ、深呼吸。そして、ゆっくりと瞳を閉じる。

 「好きにしてくれれば良い…。どうせ俺には、貴女に抗う力どころか、もう一度、座ったままの姿勢で居るだけの余力も無いだろうから…。ついでに、こうして貴女の手に圧迫されて居れば…わざわざ目を開けていなくても…自分がまだ生きて居るのが、よく解かる…。」

 言葉の終り。出し抜けに静馬の顔へ降り掛かる、童女の濡れた髪。

 その、お化け屋敷の定番、垂れ下がったコンニャクの様な不躾(ぶしつけ)さが…童女が大きく頷いた事を、静馬の瞳の奥へ教えてくれた…。

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