杯ノ二百
そう比喩では無く、片手で首根っこを掴んで、軽々と静馬の身体を持ち上げたのだ。…まったく、凄まじい怪力の持ち主だな。
静馬は、消耗し、感覚が鈍く成っているとは言え、首がすっぽ抜けそうに苦しいはず…。そのはずが、カエルの様に跳ねあがった自分の手足を見下ろしながら、恰も遊園地のアトラクションを楽しむ子供の様に、どこか夢見心地で口元を綻ばせた。
それにしても、童女は彼を掴み上げ、どうする積りなのであろう。もしかして…『女心と秋の空』と故事にもある通り…心積りが変わって、静馬を殺してしまおうという気に成ったのでは…。
だとすると静馬は、喉笛を抉られたお返しだと、このまま怪力で首を握り潰されてしまうのか…それとも、硬い石舞台の上へ頭から叩きつけられるのか…あるいは、彼には寒中水泳をするだけの体力が残っていない事を見越し、水堀へ放り込まれるのであろうか…。
自分が辿る末路を知ってか知らずか、ヘラヘラと、相も変わらず締まりの無い表情の、静馬。
童女はそんな調子の彼の身体を、まるで食前にナプキンを膝の上へ掛けるが如く、優雅に翻す。それから、その頭を…そっと、正座した自分の太腿の上に乗せた。
これはつまり、静馬の血液を朝食にすると決めた…さもなければ、単なる膝枕か…。
何秒か前まで自分の首根っこ引っ掴んでいた、小さな手。その手に、ぬいぐるみでもあやすかの様に優しく額を撫でられ…怖いものなしの静馬も、多少は驚いた顔して、童女を見上げた。
「えっ、何で、こうなるんだ…。」
と、混乱の渦中に居る静馬の視線が、鋭角に、見下ろす童女の紅潮した頬へと突き刺さる。
杯ノ二百を読んでやって下さり、ありがとうござました(^v^)
今回をもちまして『貴女を啜る日々』は、恙無く、200話目を迎える事が出来ました。
こうして連日の更新を重ねて来られましたのは、偏に、当小説をお読み頂いている皆様のお陰と、深く感謝しております。
今後とも『貴女を啜る日々』を、そして、梟小路の精進の日々を見守って頂けましたなら、これに勝る幸いは御座いません。
…と、堅っ苦しい文章で文字数を稼ぐのは、この辺で…。
皆様、今後とも梟小路の小説を、どうぞ、お暇潰しに役立ててやって下さいな(^v^)
それでは、また、次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。




