杯ノ二
青年はしびれの残る手でハンマーを引き上げる。すると…どうやらこちらもへたばってしまったらしい…。ハンマーの木製の柄に亀裂が走り、今にも千切れそうになっていた。
だが、そんなことは大した問題ではないのだ。…どうせ、この洋館の中に眠る『化け物』に、こんなものは通用しないのだろうから…。
青年はわざと乱暴にハンマーを路傍に投げ捨てた。雨でグショグショに成った手からズルリッと滑り落ちる木材の感触を手に覚えながら…青年は考える。
(親父の言う通りなら…あの女にはハンマーなんかじゃ歯が立たない。頭をかち割ろうが、骨を砕こうが、そんな生半可なことで殺せるような生き物じゃ…いいや、そもそも、あれは真っ当な生き物じゃない。)
強い雨。その音を掻き消すかの様に、喉元から、耳たぶの辺りにせり上がってくる心臓の鼓動。
青年はそのドクン、ドクンという音をなだめすかす様に、胸中でぶつぶつと呟き続ける。
(もし…万が一にでもあの女を殺すことが出来るとしたら、多分…これだけだろう…。)
青年は、汗と、雨だれに溺れる様に大息を吐く。それから…無色透明なレインコートの袖も窮屈そうに、門の脇に横たえられていた、泥と、雑草に塗れのリュックサックを掴み上げた。
(親父…あんたにやれなかった事を、この俺がやってやるよ。…別に、恨みたければ、勝手に怨むなり、祟るなりすればいいじゃないか。)
夏場の夜に降り募る冷たい雨。その頬に纏いつくひんやりとした肌触りに、自分の腹の中がどれだけカッカ来ているのかが、青年には手に取るように解った。
ベージュ色の合皮に擦り付けるかの様に、リュックサックのたるみへ指が食い込み、沈み込んでいく…。
本日投稿分は七百字ぴったり。実に気分が良いですわい(^v^)
ただ、書けば書くほどライトノベル風から逸脱していくんですが…まぁ、一話の文章量がライト過ぎる訳ですから、小説として帳尻が合ったとしておきましょうかね。
それでは、梟小路よりも夜行性な皆様、次回も、読んでやって下さいまし。
…だけど、このペースだと、吸血鬼が登場するのは何話目に成ることやら…。




