杯ノ百九十六
静馬にはそれが解かっていた。
そして、彼女に優しい言葉の一つでも掛けてやったとして、自分に不都合がある訳も無い事も…そう、どうせ死ぬのだから、童女の為の一言くらいあっても良い…。
だが、心のどこかではそう思いながら、静馬の口はカラカラに渇いていて、言葉に成らなかった。
唇を小さく開いては、閉じる。静馬がそんな事を、二、三度繰り返した後…痺れを切らした様に、あるいは、自分もまた渇いているのだと訴える様に…童女が呟く。
「優しいのね…。」
その言葉は皮肉以外の何物でも無かった。
これは確かに、弱り果てた静馬ですら瞬時に苛立ちを募らせる、起爆剤としては申し分ない。それでも…それでも、彼は気付いてしまうのだな。
同じなのだ…彼が、彼女の身体へ杭を突き立てた事も…童女が今、痛切な皮肉で彼を打ちのめした事も…。それは詰まり、
(こいつが今、そうしている様に…もしかしたら俺も、こいつの言葉に、こいつから与えられる何かに…甘えようとしたのかも知れない。…俺が母さんにそうしたかった様に…。こいつが親父にそうしたかった様に…。)
今の静馬の面持ちを見れば、眼鏡が無いと相好の区別も付かない童女でも、これ以上の皮肉や、恨み事が不毛である事は飲み込めているであろう。臓腑に浸みているであろうに…童女は、自分よりも遥かに歳若いはずの静馬に、とうとうと許しを請い続ける…。
「どうして私を罵ろうとしないの…。勇雄が死に十年以上を経て、貴方は私の元にやって着た。そして、貴方が私にしたことを思えば…私に対して、貴方がどんな感情を抱いているかは想像に難くないわ。」
丸眼鏡のレンズを、童女の熱い吐息が曇らせる。
杯ノ百九十六を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
それでは前回に続いて、『変更案』が採用できない理由をお話して行きたいと思います。
【『何話か毎で、小分けにしたあらすじを書く』の場合】
こちらの案では、サブタイトルに補足、及び備考の類を記す一つ目の案とは違い、『小説ページ』冒頭にある『あらすじ』の欄に『説明文』を書いてみてはというものです。
実際的には、『あらすじ』の文章の下、サブタイトル群の上に位置する部分に、『杯ノ一~杯ノ三十…うんぬんしているパート』の様な形で、『小分けにしたあらすじ』を付け足す手法を考えてしました。
…ですが、前回にお話しましたボツ案と同様、ネタバレしない程度の大まかさで『説明文』を付けるとなると、サブタイトルの見やすさを向上させる上で、用を成しません。
更には、ただでさえ『即興小説の説明文』を載せている『あらすじ』に、『本文の説明文』まで加えてしまうと…正直、見栄えが悪かったです。
…今回は、この辺で(^v^)次の『後書き』では、『通し番号の他に、表題を付ける』の場合が不採用だった理由を記します。
それでは、また、次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。