杯ノ百九十
静馬の当初のプランを思えば、何もかも上手く運んでいる…とは、言い難い…。
それだと言うのに静馬は、自分が何とも言えない安堵感を覚えている事に、肩の荷が下りた様な寛いだ心境の中に居る事に気付いた。
(後生だからと母さんにせがまれ、土地探しから、墓石の手配まで、渋々ながら俺が面倒を見て、立派な墓を建ててやった。どうせ、親父の残した金だし…それに母さんが満足なら、それで…それで、俺にとっても、親父の事には一応のけりが付けられたと思っていた。)
童女に習う様に、静馬も頭を垂れ、石舞台に映り込むものを見つめる。
そこに映し出されたのは…少年の日に思い描いた美貌の吸血鬼の姿…。見た事も無い豪奢な調度品に埋まる、煌びやかな洋館…。そして、洋館の奥の、そのまた奥に隠されたスペクタクル…立ち入ったものを一呑みにしてしまう、魔の洞窟…。
ありありと目下に投影された空想は、鮮やかに色付いている。だが、それは静馬が少年時代に夢見た『非日常』の極彩色では無かった。
明るい蛍光灯の白。磨硝子の向こうの、羊羹色の黒。あまり好きではなかった酒瓶の茶色に、それから…酔っぱらって赤く成った肌色…。
静馬の思い描く世界には、そんな…幾度となくキャップの捻られた絵具の様な…温かく、気取りの無い…懐かしい匂いが溢れていた。
記憶の片隅。『心残り』という名のイーゼルに乗せられたままだった、描き掛けのキャンバス。静馬は、ずっとそこに描きたかった題材を見付け、嬉しそうに、子供の様に無邪気な笑顔で、手を差し伸べる。…冷たい石に映る遠い日の思い出たちに、愛おしそうに手を触れる…。
杯ノ百九十を読んでやって下さり、ありがとうござました(^v^)
とうとう、200話目まで残り10話。文字数にして7,000文字のところに着ました。
10話分で…残すところ7,000文字かぁ…。どうやら、200話の節目も、洞窟の中で迎える事に成りそうですね。
まぁ、100話の時とは違って、今度は裸の美少女と差し向かいの分、かなりマシでしょうが…そりゃもう、かなり(^v^)
それではまた、美少女の裸身も良いけど、出来る事なら洞窟とはオサラバして欲しい、次回の梟小路の綴る『貴女を啜る日々』でお会いいたしましょう。