杯ノ十九
そして握力すらも剥がれ落ちていく様だ…。
ずいぶんと長い間、心臓より高い位置に左手を伸ばしていたからだろう。筋肉疲労で張った二の腕へ、血潮と、痺れが流れ込んで来た。
青年は小さく呻きを上げて、足を止める。…まるで、己の心臓が止まったかの様な音の無い世界…その足元を何かが固い音を上げて転がり落ちていくのが聞こえる。
青年が音のする方を見れば、なんと、小さな光がこちらに向けられているではないか。…青年は、うつら、うつらと、眠りの湖畔で船を漕ぐように、段差に足を落とす単調な作業を再開した。
足音が高く響けば、また息苦しさが込み上げてくる。それでも青年は、耳鳴りに、息を吸い込むという才覚を掻き消されてしまった様に、渇いた唇を固く閉ざして、下へ、下へと降りていく。
最早、平衡感覚もあやふやで、暗中に指す一点の光を見つめる青年には、下りているのか、真っ直ぐに歩んでいるのかも定かではない。
そんなおぼつかない足取りながらも、青年は何とか光の袂へと至る事が出来た様だ。ぼんやりとした頭で、光の源である『それ』を掴み取って…っと、その時、青年の耳には確かに聞こえていた…。
(雨…。)
ぐらりと前に傾く身体。そして、頭の天辺に感じるこの星の引力。…青年はそのまま…頭から真っ逆さまに、黒く霞む視界の中へと落ちていく。
だが…青年にとって幸運だったのは…青年が、この無限に果てることの無い様にさえ思われた階段の、終着点に辿り付いていたことであった。
青年は寸での所で、頭が尖った階段の縁に激突する前に、背中を出口側の戸板にしこたまぶつけることが出来たのである。…敢えて、もう一度言おう…幸運だったと…。
杯ノ十九をお読み下さり、ありがとうございました(^v^)
やぁ、即興で文章を書くのは楽しいですなぁ。…で、楽しく文章をタイピングし続けた結果、梟小路も流石に気付きました…これは、杯ノ二十一になっても、吸血鬼でるか怪しいぞ…と…。
まっ、そうは言っても即興で書いている小説だし、案外、どうなるか解らないかも知れないですけどね…。
作者としては…楽しんだ結果ですんで…納得はしてるんですけど、吸血鬼の登場を心待ちにして下さっている皆様には、本当、申し訳ないこってす。
加えて、先の展開を考えて居ないだけに、『吸血鬼とのファーストコンタクトは刺激的なものに成る』と保証する事も出来ない始末…。
今お約束できるのは…杯ノ二十一までとは言わず、吸血鬼が出るまでは毎日投稿を続行する事くらいでしょうか…。
そんなこんなで、結局見通しは立ちませんが、執筆はボチボチ頑張りますので、次回の『貴女を啜る日々』も、よろしくお願いします。