杯ノ百八十四
掌を押し付け、指先の感覚で探り…どうも彼女は、青年の頭蓋骨の形を手で確かめているらしいのだ…。
その間にも童女は、おそらくは彼女の手先が良く心得ている『青年の父親の頭の形』と、今そうして触って居る青年の頭の形状に相違がある度に、
「んっ…。んっ…。えっ。」
と、喉から疑問の音を漏らし続けた。
そんな状況が数分経過して、童女にもようやく納得がいったらしい。青年の鼻先から、手と、顔を離すと、彼の鳩尾の辺りに、どっかりと尻を乗っけて…やや引きつった笑顔で彼に尋ねる。
「あの…私も…今更とは思うのだけれど…その、とても基本的な事を聞いても良いかしら…。」
そう、童女に…馬乗りに成られた状態ではあるが…下手に出られた青年は、
「…どうぞ。」
と、至極淡々と答えるのだった。
童女は、生唾を飲みつつ、青年に頷き、そして…口を開く。
「貴方、勇雄よね。…あっ、いや…立花勇雄さんに違いないのでしょう…。」
青年は童女が口にした男性の名を耳にし、一瞬、眉根を曇らせた。
それから、童女の問いに答えるべく青年は口を開いて…だが言葉を噛み締める様に、唇がパクパクと動いてばかり…。
青年はそんな自分を叱咤する様に唇を噛むと、いよいよ、童女に返答を始める。
「俺は、その…今、あんたが言った名前の男の…息子だよ。」
『えっ。』
と、尋ね直す様な、了解しかねる様な声を漏らす形で、童女の瞳も、頬も、唇も、固まって居た。…しかしながら、よっぽど驚いたらしいな。絶句して、声が喉から上がって来やしない…。
そんな様子の童女を見据えても、堰を切った青年の感情はひたすらに流れ続ける。
杯ノ百八十四を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
皆様、当『貴女を啜る日々』にて、二つ目の人名が登場いたしました。
一つ目から150話以上を掛けて、ようやくのお二人目のお名前…いやぁ、長かったなぁ…。んで、まさかとは思うけど…主人公(?)や、ヒロイン(?)の名前が出るまでにも、これ位の間が開いたりとか…。
まぁ、この調子だと、しばらくは会話回が続きそうですから、早々に何とかなるとは思うんですけどねぇ…何とかしてよ、明日の梟小路。
それでは、また、お天道様と、『即興小説』はどうにもままならぬ、次回の梟小路の綴る『貴女を啜る日々』でお会いいたしましょう。