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杯ノ百七十八

 しかしながら青年は、麻痺した腕さえも癒す様なその感触を、楽しんでばかりも居られないのだ。

 慌てて彼女の手から手首を引き剥がそうと…だが、童女の手のこの力は…どうやら彼女は、その柔らかな皮膚の下に、化け物染みた腕力さえも重ね合わせていたらしいな。

 童女は、弱った青年の力など赤子の手を捻るも同然と、涼しい顔をしている。そうして、彼の右手の人差し指をしげしげと眺めた後で…、

「この傷の…この出血の仕方って…貴方、私が眠っている間に、私の口に何か悪戯したでしょ。…まったく、ふしだらな…。」

と、ぶつくさと文句を垂れる童女の頬は、見たまんま、明らかに紅潮していた。…妖艶な女性なのかと思えば…『ふしだら』などという言葉が出るところを見ると…案外、物堅い淑女でいらっしゃったのかも知れない…。

 一頻(ひとしき)り小言を述べ終えて、童女はとりあえず満足したのか、小さく息を吐く。…で、それから彼女がどうしたかと言うと…一端は閉じた口を、カパッと大きく開いて青年の右手目掛けて…、

 「お前っ、おいっ、何する気だ。止めろ。」

と、青年は身体全体を揺す振りもがきながら、童女の行為を制止した。…気の所為だろうか…吸血鬼に右手を食い千切られるのを怖れた…と言うより…何と言うか、自分の手が童女の口に含まれるのを照れている様な…やっぱり、死体を相手にするのとは訳が違うという事だろうか…。

 そんな態度の青年に、童女は『何を今更』とでも言いたげな呆れ顔。むしろ、不思議がっている様にすら見える。

 「はい、はい。久しぶりに初々しいところが見られて、悪くはない気分だけど…。まさか、血中に私の唾液が混じる事の意味まで、忘れては居ないでしょ。」

 杯ノ百七十八を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)

 勝手にそう思い込んでいるだけとは思うのですが…執筆がしっくりこない時、ウイスキーボンボンを食べてから再開する。そうすると、その次の執筆までには不思議と違和感が無く成り、また、スムーズに文章が書けるようになる…気がします。

 『酒は百薬の長』とか言いますし、何か、その手の効能のお陰なのでしょうかね。まぁ、梟小路はアルコールに弱いんで、解かったところで有効利用は出来そうにもありませんが…。

 それではまた、酒飲みの話よりも血を吸う描写が欲しい、次回の梟小路の綴る『貴女を啜る日々』でお会いいたしましょう。

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