杯ノ十七
例えば、今、青年が居るこの狭い階段などもそうだ。
吸血鬼の為、日の光が一切差し込まない様に作られていると思しき階段。こんなスペースには普通なら、蜘蛛の巣が付き物であろうに…青年は下ばかりを気にして、いつ降り掛かっても可笑しくない蜘蛛の巣の襲撃を気にする素振りすらない。
そう考えてみれば…考えれば、考える程に薄気味悪いことに…青年がこの洋館を訪れてから、羽虫の一匹すら目にして着てはおらず、雑草の一本が床と壁の境目から顔を覗かせている様な光景も見てはこなかった。
そして、それにもまして不自然なのは…まさに自然の法則から外れているとしか思えないのは…今しがた壁の中に滑り込ませた、『引き戸』であろう。
いいや、もう少し具体的に言えば、引き戸の下の…金属製のレールの部分が尋常とは思えないのだ。
普通、住む者の無くなった家は荒れる。そして、良かれ、悪しかれ、その家は人の手を離れ『自然』の一部へと回帰していくことになる。
それは、この歴史ある洋館であっても例外ではない…はずなのだが…。
この、木々と、無数の石塊に抱かれた山深い洋館は、人手を離れてなお『不自然』な状態を止めている。…恰も、時間が止まってしまったかの様に…恰も、生命の営みを拒んでいるかの様に…。
その最たる事象が、あの引き戸のレールであろう。…読者の皆様も、可笑しいと思ったのではなかろうか…何故、この引き戸のレールは、錆付いていないのだろうか…と…。
こうして青年が、一段、一段と、階段を下って行く度、数瞬前に彼自身が蹴り散らかした埃に巻かれている姿を見れば…この洋館が当方も無く長い時間を、人と交わること無く過ごしてきた事が感じ取れる。
ナゼデショウカ…今回の執筆は、朝っぱらから、異様に手こずりました。…ったく、今日が休みでよかったですよ…でないと、今作で初の『夜まで本文の完成が持ち越し』と成るところでしたからね…。
まっ、そんな訳で、梟小路には紆余曲折(っと、言うほどの事でも無いか…。)が有りましたけれど、杯ノ十七も読んでやて下さって、ありがとうございました(^v^)次回の文章も、どうぞ、お読みくださいな。




