杯ノ百六十七
青年の居る小さな楕円形の範囲だけを残して、血の朱に塗れていた石舞台。その穴の開いた朱色の円形が、中心から少しずつドーナツ状に変わり…その赤いリングも細く、絶え絶えに成っていった。
剥き出しに成った石舞台の表面の色が、青年の居座る楕円形と繋がる。
それに気付くや青年は、未だ震えの止まない右手を、ペタリッと、押し潰す様に石舞台の表面に張り付けた。
未練がましく蠢き続ける手の甲の骨の感覚を、微かに不快に思いながら…青年は、今しも水堀へ流れ落ち切らんとしている血の輪の行方…ではなく、色褪せた檜の棺桶を見た。
それは、とてもじゃないが、さっきまで血塗れだったとは思えない。恰も樹皮を剥いだばかりかの様な、無垢な、白い木肌を晒している。…だからこそ、霞んだ青年の瞳にもそれがすぐに分かった。
棺桶の縁に、一滴、小さな血の膨らみが残されているではないか…。
暖かな木肌の白の上に取り残された、そのルビーの如き一粒。それは紅く、そして、蝋燭の灯りを嫌う様にわずかな透明感を宿している。
右手の震えを、上半身の体重を掛けた力づくで抑えている青年の見入る先に…その一粒が木枠の上から、石舞台へと零れ落ちた。
…青年が眉を潜める様な不自然さは、血の粒が石舞台の表面に接した瞬間に、始まっていた様だ。
聴覚が磨滅している青年には、その瞬間に、どの様な音が響いたのか解かりはしない。だが、パンッとか、パチンッなどという、破裂音はしなかったのであろうと彼は確信していた。
何せ、一粒の状態で落ちた一滴は、石舞台にぶつかってもなお、一粒で在り続けているのだからな。
杯ノ百六十七を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
今月は、どうにも周りの連中が忙しく、なかなか構ってもらえない状況。…麻雀も、今年に入ってから三麻しかしていないなぁ。
まっ、その分は執筆時間に充てられ、各小説の進捗状況には良い影響がありましたけども…こうムラムラと…麻雀がしてぇなぁ~と…。
うーむっ、まだまだ、脇目も振らずに執筆という境地には程遠いで様です。そう成ったらそう成ったで、小説作成を自粛せにゃ成らなくなるのでしょうがね(^v^)
それでは、また、『適度』な執筆活動を目指して止まぬ、次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。