杯ノ百六十一
まるで川縁に流れ着く木の葉の様に、白木の杭は棺桶の木枠に吸い寄せられ、吸い寄せられては木枠にぶつかる反動でまた離れる。そして杭が木枠へぶつかる度に、棺桶から流れ出す血液の『水筋』も、幅を広げていった。
この分なら30秒と掛らずに、木枠からはみ出し『表面張力』の緊張状態を生み出していた最小限の血液は、流れ落ちるであろう。そうなれば、一応の安定が訪れる…青年さえも、何の疑いも持たずにそう思っていた。
だがしかし…人体の許容量を越えた吸血鬼の血液…その『最小限』とは何リットルなのであろうか…。果たして、『表面張力』という静止状態を壊した後に訪れるものが…『安定』と言えるのだろうか…。
青年はここに至ってもまだ、気付く事が出来ないのだ。自分こそが、道理も、能書きも通じない、『非日常』の赤い水面を漂う一枚の木の葉である事に…自分は既に、血の川を下り落ちる滝の傍へと、流れ着いている事に…。
青年にはそれが、最初、赤いカーテンが開いていくかの様に見えた。
棺桶から浮き出た血液さえ流れ落ちれば、それで血の流れは止まる。徐々に、木枠を乗り越える血の筋も細く成り、やがては消えてしまう。…そんな彼の予想とは真逆の光景が、文字通り、木枠の上を広がり始めたのだ。
「おい…まだ残っていたのかよ。血が…」
と、恐怖という針のむしろに座る青年は、絶え間ない痛みを冷やかす様に、皮肉っぽい笑みを浮かべた。
青年の言う通り、童女の肉体には未だ血液が残されていたのだ。そして…もし、童女の肉体もまた緊張状態の一因であり、それが崩れた為に出血が再開したのであれば…緊張を保とうとした青年の努力は、無意味では無かった。無駄骨ではあろうが…。
杯ノ百六十一を読んでやった下さり、ありがとうございました(^v^)
前回の『後書き』にて、1月6日(日)のお昼頃を目掛けて『熔ける微笑 丙』、及びお年賀『活動報告』の投稿を、続けて、同日の18時頃に『貴女を…』の更新と申し上げました。
…まぁ、上記の件でお気づきの事と思いますが…所要が入りましたので、勝手ながらスケジュールを変更させて頂きます。
まず、下手をすると6日の内に『貴女を…』の更新が出来なくなる怖れがありましたので、本日分である杯ノ百六十一の投稿を優先して行いました。
次に『熔ける微笑 丙』、及びお年賀『活動報告』の投稿ですが、一応の用意は済ませてありますので、早ければ今晩から、日付をまたいだ早朝にでも…場合によっては、7日の晩という事にさせて頂きます。
どちらにしても、当初のスケジュールからは延期となり、読んでやろうと心積もりをして下さっていた皆様には、本当に失礼いたしました。
出来うる限り迅速に投稿いたしますので、どうぞ、よろしくお願いいたしますm(__)m
それでは、また、次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。