杯ノ百六十
綺麗な円形の軌跡が、グニャリッと歪む。そこから、こぶの様な偏りがあちらこちらで膨らんだり、しぼんだりしている。
勿論、それは杭が形を変えた訳ではない。それは回転する杭の位置が、一所に定まらなくなった為に起きた事なのだ。だとすると…、
(このままだと、杭は棺に…。)
青年はこの後に起こりうる可能性に、渇いた喉で呻いた。…その表情は、杭の挙動が小さく、小さく収束していく事を、念じているかの様に険しい…。
しかしながら青年の祈りは、気紛れな女神の耳には届かなかった様だ。
血溜まりを決壊させまいと身動ぎも無く耐え続けた青年の目の前で、白木の杭の切っ先が…ツンッと…棺桶の木枠を擦った。
波紋は無い。だが、青年には一目で、血溜まりの『表面張力』が破れた事が解かった。…なぜならば…。
切っ先で棺桶の木枠を擦った白木の杭は、その後も半周ほど回ってから、ピタリッと、円周運動を止めた。しかし、その代わりに…少しずつ、杭は棺桶の木枠の傍へと…その切っ先がマッチの頭をそうする様に擦った木枠の方へと…吸い寄せられているではないか。
(棺に溜まった俺達の血に、流れが生まれた…。)
と、青年の思った通り、どうやら棺桶を満たす血液が流れ始めた様だ。
無論、それは血溜まりの『表面張力』が決壊した事を示している。それにしても…、
(いざ流れ出し始めてみれば、何とも呆気ないと言おうか、どうと言う事も無いと言おうか…。まさしく、『大山鳴動して鼠一匹』って奴だな。俺は一体、何を心配していたのだか。)
確かに、現状を見せつけられれば、青年が気抜けしてしまうのも無理はない。棺桶一杯分を血で満たすパフォーマンスの後が、これでは…。
杯ノ百六十を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
一晩寝て今朝に成ってみると、昨夜の執筆でのモヤモヤが嘘の様に、晴れ渡っておりました。…スランプとかではなく、単なる正月疲れだったかな…。
まっ、また違うドツボにはまり込む前に、この話はこの辺にして、明日の予告をいたしましょう。
明日、1月6日(日)のお昼頃を目掛けて、『熔ける微笑 丙』と、お年賀『活動報告』を投稿させて頂きます。お暇潰しをお探しの方は、どうぞ、これらをお役立て下さいまし(^v^)
また、同日の18時頃には、いつも通りに『貴女を啜る日々』も更新いたしますので、そちらもよろしくお願いいたします。
それでは、また、次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。