杯ノ百五十九
体温など最早、感じられるどこにも残されていない。それだと言うのに、この寒気、この恐怖は…青年は眉間に皺を寄せて、余計なもの見ず、ただ棺桶を見る事に意識をも戻す…。
青年自身にもはっきりと解かってしまったのだ。…自分が怖れたのは、棺桶から転げ落ちる血塗れの童女の姿では無いと…。イメージの隅々を探っても、その中に…ごろりと寝返りをうつ、血と、死の夢に溺れた童女の姿を想像できない…童女の存在だけが、ぽっかりと、青年のイメージの世界から抜け落ちてしまっているのだ…。
そう、やはりだ…やはり青年は、『未知』の恐怖と葛藤している。ただし、底知れぬ水面の不明瞭さでも、化け物の歯牙の痛みでも無い。青年はやはり、童女の存在そのものを…この世のあらゆる生き物にとっての未知の存在を…吸血鬼という生命の在り方に、底無しの不安を見たのだろう。
歯痒い。青年だって何も出来ずに居る事には歯痒いに決まっている。しかし今は…どれだけ憔悴し切っていたとしても、この場から生きて抜け出さなければならない今だけは…何をすべきなのかより、何をしてはならないのかばかりが、彼の今一手の行動力を縛って放さない。
そんな青年の心情を表したかの様に、血溜まりの水面に浮かぶ白木の杭が、まるで方位磁針の如く、くるくると回っている。
その切っ先の指し示す先にあるのは、青年の行き付く果てか、それとも、童女の向かったであろう死の世界か…。青年は黙って、その緩慢な動きを眺めるよりなかった。
あるいは、そんな青年の壊れたコンパスにも似た定まらない心境が、偶然の女神の不興を買ったのやも知れないな。杭の描く軌跡が、大きくたわみ始めたのだ。
杯ノ百五十九を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
今宵の『二次創作小説』執筆中に…何かしっくりこないもを感じて…早くも、新年一発目のスランプに陥りました。…先月にも、成ったばかりなのに…。
しかもこの度のスランプでは、執筆が手に付かなくなる病のオマケ付き…明日の『貴女を…』の執筆が不安だ…今日は、さっさと寝てしまいましょうかね。どうせ、頭を切り替えてからでないと、一文字も書けないだろうし…(^v^)
それでは、また、次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。