杯ノ百五十二
青年は何かを刺激する事を恐れる様に、音も無く血濡れた右手を棺桶から引き揚げた。
それはまさに、青年の思った通りの光景…。
いつの間にか棺桶の中には、敷布団が見えなくなる程の血溜まりが出来上がり、童女の遺骸も耳の辺りまでその中に沈んでいる。そして驚いた事に…青年の右手が引き抜かれた後も、少しずつ…血溜まりの水位が目に見えて上昇してきているではないか…。
敷布団に蓄えられる許容量を超えた出血。これは童女の全身の血液が、体外へと流れ出した結果だろう。しかし…それだけでは少々…否、相当に辻褄が合わないのだ。
例え、童女の体内に元より有った血液に加えて、青年の全身の血液もこの棺桶の中に収められていたとしてもだ…。成人男性の血液量が約6リットル。それに童女のおおよその血液量である4リットルを足して、都合10リットル。
この血液の量に、童女の身体と、敷布団の体積を合わせたとしても…小豆の粒を詰めた枕は計算に入れないにしろ、敷布団の保水力はかなりのものだろうから…やはり、どう考えても、この棺桶の容積の半分を埋める血が流されたとは思えない。
そう、青年がどんなに論理的思考を働かせ、どう考えても…童女の美貌と、喉から突き出た杭だけを残し、棺の中へ水没していく姿を…否定し様も無いのだ。
ところで、どんなに怪異な事態に直面していたとしても、呼吸はしなければならない。
相変わらず息苦しいのに変わりない、だが…心なしか、多少は息継ぎが楽に成っている様な…。
目の前の怪奇現象にこんがらがった青年の頭は、それに気付くや、ここぞとばかりに解決の容易そうな問題に食い付いた。
(甘い果実の匂いが止んでいるな…。)
杯ノ百五十二を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
今回の執筆は、それなりにスムーズでした。…やたらと、誤字、脱字が多かったけれども…。
しかしまぁ、後は睡眠不足さえ解消されれば、好ましい執筆リズムを保った状態で年が越せるでしょう。
歳末のもう一踏ん張り。初詣にも行かずに麻雀卓の前で座り込みする分、気合いを入れて楽しむぞ(^v^)
それでは、また、次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。