杯ノ百四十六
その顔色を見るに…優れないのは致し方ないとして…驚愕の様相も見て取れない。
まぁ、童女の…吸血鬼の、超人も裸足で逃げ出すであろう異能を、そして、超越的なまでの異様さを目の当たりにして来たのだ…今更、彼女が、『出血し難い生き物』で合ったとして…驚く理由に成ろうはずも無い。
だから、青年の顔に驚愕の態が無いのは良いとして…しかしながら…彼の顔に浮かぶ諦めの色は、そこに同居する『やらざるを得ない』という決意の眼差しは、一体、何を暗示しているのだろうか。
青年は右手を咥えた歯の隙間から、生暖かい溜息を漏らす。
(杭が刺さる前にこいつが死んでいたなら、出血の無いのも解かる。しかし…それは無いだろう。同じ笑顔でも、死に顔なのか、それとも、生きている者の笑いなのか位は見分けられる。いいや、むしろ、その根拠の無い自信の所為で、今の不安に駆られているんだよな…。こうなると、今のこいつが確実に死んで居るのかすらも怪しいものだ。もし、こいつを殺した確証を得ようと思うなら、やはり…こいつの頭を…切り落とすしかないか…。)
介錯人が刀の手入れの最中に銜える半紙を落とすが如く、青年は止血していた右手を放した。…歯型が付くほどしっかりと噛み締めていた様だが…指からの出血を見る限り…気休めにしか成らなかったらしい…。
青年の右手は始め力無く、グラリッと、彼の胸元の辺りまで垂れ下がる。それから、やっとの事で脳からの指令が伝わった様に、のっそりと向かう。…どこへ…勿論、童女の笑顔以外に、行きつく先など無い。
右手は杭の寸前まで伸びて、それから静止する。値踏みしているのだ。
杯ノ百四十六を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
前回、前々回に続き…今回もなかなかに、生々しい描写が…。
ですけども、思い返してみれば…ここのところの表現を『グロい』と分類するのであれば、これまでにもその範疇に入る様な描写を重ねてきた様な気もしますな。
しかし、まぁ、それだからこそ、前回の『後書き』で定めた『グロい描写を10話分行ったら、あらすじに残酷描写あり警告文記載』という取り決めが活きてくる訳ですよね(^v^)…グロ小説認定まで、あと、9回か…襟を正す積りが勢い余って、首を絞めたかも知れんなぁ…。
それでは、また、兎にも角にも描写を頑張る、次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。




