杯ノ百四十四
その拳が小刻みに戦慄く度、青年の声へ熱が…もうずっと前に失われたはずの…熱が戻っていく。
「だから、返してもらうよ。血と、命はもう無理だろうけど…あんたに預けた物の幾つかだけでも、俺は持って帰らせてもらう。なぁに、どうせあんたにとっても、持っていて邪魔になる様なものだろうさ。…でもな、俺が死ぬその瞬間まで足掻き続けるには、どうしても必要なものなんだ。だから、返してもらう。あんたへの『殺意』と、俺の『意地』だけは…。」
と、青年がそう言い放つと同時に…まさしく、爆ぜるが如く…握れていた彼の左拳が、カッと、開き、五本の牙を剥いた。
そして青年は、奥歯を砕けんばかりに噛み締めて、右手に掴んだ白木の杭を…血に染まった杭を…童女の喉へと振り下ろした…。
コマ送りの様にゆっくりと、青い静脈の透けて見える童女の白い喉笛を、杭の切っ先が噛み裂いていく。それは極限まで研ぎ澄まされた感覚が見せる、凄惨なシーン。青年の瞳はそれらを、まんじりともせず凝視する…。
ゆっくりと…ゆっくりと…表皮を、漏れ覗く桃色の血肉を掻き分けて…ゆっくりと、童女の喉へ、首の中へと杭が突き進む。
彼女の肉体の柔さ、首の細さに、青年も流石に懸念を抱いた。
(このまま、杭でこの細首を貫いたとしたら…杭の胴の一番太い部分までめり込ませたとしたら…千切れるかもな、こいつの首…。)
青年はその、鮮やかで、血生臭い、残酷な想像に対して…不気味にほくそ笑んだ。
確かに、首さえ切り落としてしまえば、大抵の生き物は…否、化け物であろうと、一溜まりも無かろうからな…。
それならば、杭を更に押し込もうと…しかし、何故か…青年の手は杭を離すのだった。
杯ノ百四十四を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
昨日の更新分である、『杯ノ百四十三』の更新に不備が御座いました。
どうやら、『後書き』を『投稿本文』のフォームに直接入力した為に起きたエラーだった様子です。
誤りの訂正までに時間が掛りました事も含め、この場を借りまして、梟小路の不手際を陳謝させて頂きますm(__)m
また、今日、12月20日(木)の早朝、『杯ノ百四十三』を再投稿いたしました。その為、カウントの上では、本日中に二話分を更新した事と成っております。不得要領な事が続きますが、どうぞ、ご勘弁下さい。
さて…梟小路の不手際で、『連日更新』が途切れてしまったのは残念に思います。…けど、まぁ、実害のある訳でも無し…明日からも、これまで通りに更新を続ける所存でおりますので、よろしくお願いいたします(^v^)
それでは、また、明日からの『連日更新』で繋がる、次回の梟小路の綴る『貴女を啜る日々』でお会いいたしましょう。