杯ノ百四十二
己への嫌悪感に、小さく揺れる青年のまつ毛。それを境に決壊し、目から零れ出す涙…そして、青年のわだかまりも…。
「意味が無いんだ。誰かの為に、誰かと一緒に…そうやって始める事に意義があったとしても…自分の為にそれを終わらせる事が出来ないのであれば、何をやったって意味が無いんだ。」
意を決した様な青年の瞬きが、温く、淀んだ涙を洗い流していく。
青年は徐々に鮮明さを取り戻していく瞳で、童女の笑顔を見据えて、
「…散々耐えてきた。それが二人の為だと思えば、親父と、母さんの思う様にさせればいいと…言いたい事すら飲み込んで我慢した。その結果がどうだ…親父は惚れた女と添い遂げることも叶わず、母さんは夫を恨み、息子を虐待する様な母親に成った。」
と、更に、二、三度の瞬きを経て、その瞳からは全ての鱗が剥がれ落ちていた。
青年は、見下ろす水面に顔を出した人魚の様な笑顔に向かい、誰でも無い…勿論自分でも無い…童女に、吸血鬼に語り掛ける。
「二人ともきっと、後悔したろうと思う。道半ばで…そして道の先に辿り着いても、望んだものを得られなかったんだからな。…だけど今と成っては…俺にとってはそんな事、どうだって良いんだ…。」
杭を噛む右手の指に力を込める、青年。彼の身体にまだ、それだけ力が残っていた…あるいは、最早、流れ出す一滴の血も残って居ないからなのか…命を吐き出す一方だった彼の手から、出血が止まっている。
青年は口の端に舌を這わせ、頬を伝い落ちる血涙を舐め取った。
「失ったものは今更、取り戻し様が無い。だから、どうだって良いんだ。今日からの俺が何を食って、何の命を奪って生きるかに比べれば…。」
杯ノ百四十二を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
今月に入ってからは、当小説の更新を携帯端末に頼り切りです。今の端末無しには、『連日投稿』の自己記録を、ここまで伸ばすことは叶わなかったでしょう。
やぁ~、最近の携帯は本当に便利だ。こうして、『後書き』くらいなら楽勝で書けてしまうのですから…キーボードに比べると、量を書くのに随分と根気が入りますけども…そういう訳ですので今回は、この辺りで…。
それでは、また、次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。