杯ノ百四十一
嘆き、ボロボロと泣き崩れながら…青年の身体が、杭を持った右手が…前のめりに倒れて行く。笑いを絶やす事の無い、童女の容貌に向かい…。青年がまた涙の痛みを噛み締める。
「恨みを晴らすまで決別できないと…そうでもしなければ安らかに死んでいけないのは、俺の方だったなんて…自分なんていつ死んでも良い。そう捨て鉢になってここを訪れたはずなのに、俺は…吸血鬼を傷つけ、吸血鬼に血をやり、吸血鬼の命を奪おうとしているっていうのに…何がしたかったんだ、俺は…。」
青年は涙でぼやけた瞳を細め、童女の笑顔を見つめる。こうして見る童女の容貌は…、
「母さんとは似ても似つかないな、やっぱり…。母さんに手を上げられる度に、半べそかきながらあの氷みたいな面を見上げてたけど…考えてみれば、見下ろすのは始めてだな。」
と、前のめりに倒れ込む自身に逆らう様に、青年は顔を上げた。
目に溜まる涙の中には、地平線に消えたはずの微かな月明かりだけが残っている。蝋燭の火も、数本を残して全てが燃え尽きたのだな…。
青年は涙の淀みに浮かぶ『瞼の母』の面影に溺れる様に、息継ぎするかの様に、口を開いた。
「結局、俺は…自分の前へ並べられる展開を、済し崩しに、俺にとって都合が良い様にこじつけ、生きてきたに過ぎない。親父が家庭を顧みなかった事も、母さんが俺に…俺に手を上げた事も…二人が死んで、俺だけが残された事ですら…母さんの恨みを晴らすためだなんて…全部、誰かが用意していたものを、我が物顔で片付けてきただけ…。そして、このまま…母さんの為とか、怖かったからとかであんたを死なせ、ついでに俺も…済し崩しに俺も付き合う積りかよ。」
杯ノ百四十一を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
一話700文字での連日投稿。自分の書いた文章を省みる機会の多さからか、ここのところ更に執筆ペースが上がった様な…。
気分良く文章を書いている内に能率が高まるなんて、他の小説を作成している時には、無かったのに…『即興小説』の思わぬ副産物でした(^v^)
しかしながら、能率が上がったら上がったで…なんだったら、一話分の文字数がもう少し多くても…とか、良からぬ事を考えてしまうのですよねぇ。
1,000文字…いや、800文字位までなら、連日投稿は可能だったかも…もし、二つ目の『即興小説』を執筆する様な事があれば、それ位にすべきでしょうか…。まっ、それもこれも、『貴女を啜る日々』の、タイトルに適った展開を記してからの話だな。
それでは、また、次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。