杯ノ百四十
嬉々とした顔で、そして同時に、鬼気迫る様な顔で童女を見下ろす、青年。
肉も、血も、凍りついた様に鈍く、冷たい。それなのにどうして、左目から流れ落ちる涙だけが、こんなにも…焼け付く様に熱いのだろうか…。
青年は、自らの中に渦巻く、疑問や、矛盾に目を瞑るかの様に、左の瞼を閉ざした。
そして…尚も流れ続ける左側の涙を堪える様に…青年は朱に染まる右目を見開く。
「今まで…母さんの安らかな死に顔を見るまでは…親父の夢想の肩棒を担ごうだなんて思いもしなかった。…子供心にもな。」
閉ざしても溢れだす涙に左眉を震わせ、青年が続ける。
「俺をここへと駆り立てたものは、母さんだったことは間違い無い。…けど、それは…労苦と、鬱憤に塗れて、それでも親父を恨み切れずに死んでいた母さんへの…弔いの積りでいたんだ。…俺自身、母さんから手を上げられたとしても、その事を恨もうなんて気は微塵も…これっぱかしも無いと…思っていたんだがなぁ。」
青年の身体が小刻みに震え始めた。
始めは寒さから、次に息苦しさから、そして最後に…悔しい、悔しいと声すら震わせながら…青年は童女を怒鳴り付ける。
「笑うな。もう、笑うんじゃない。」
乾き切っていたはずの右目からも、涙腺を引き裂く様な、痛みを伴う透明な涙が溢れだした。
温かいな。思えば…血を凍らせながらも涙の熱さを保ち続けたのは…この時の為だったのかも知れない。
そして青年は、短い慟哭の終りに告白する。
「認めたくない…弔ってやりたかったんだ。母さんを…親父を…心から、二人と決別する覚悟が欲しかった。それなのに…俺自身が…二人への恨みを晴らしたいが為に、ここに来たなんて…。」
杯ノ百四十を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
長時間パズルゲームなんかをプレイした後に、映像が目に焼き付いて、目を閉じるとゲームの画面が見えたりという事がありますよね。
今の梟小路が丁度、その状態です。…瞼の裏から未だ消える事の無い…幻と終わった純チャン三色の牌姿が浮かぶ。
…っと、そう言った具合に、麻雀の余韻を引きずったまま今回の執筆を行いましたので…変に、麻雀的な要素が反映されてないと良いんですが…まぁ、読み返した限りでは、どうという事も無さそうでしたけどもねぇ。…余計な心配をする前に、描写力を高め、一本調子な文章に成らない様に意識しよう(^v^)
それでは、また、麻雀の毒気の抜けているはずの、次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。