杯ノ百三十二
物言わぬ蝋燭の灯火とも、無情に時を告げるだけの月明かりとも違う。明確な意思の光の宿る、童女の紫色の瞳に見つめ返された青年の驚きが…そして、絶望の底なし沼に抱かれ、沈んでいく…蒼白から落胆へと移り行く、彼の顔色の変遷の意味が…。
童女のその瞳に意識され、始め青年はどんな表情をして良いのか解からなかった。
物問いたげな視線に応えて睨みつけるべきか、それとも、彼女に不公平感を与えない為にも、『自分も間もなく死を迎えるのだ』と、沈痛な面持ちでアピールするべきか、あるいは、全身の血を吐き出して燃料切れ、涙も出ないぜと瞬きを繰り返そうか…だが、そんな数ある面様の中、青年が選んだ『死顔』は…、
(名前なんか知ってもらう必要はない。俺が…あんたの中の俺が、俺である意味もだ…。あんたにとって目の前に居る男が、『誰』でも無い、『見も知らぬ殺人者』そのものであってくれれば…。まぁ、その点に関しては心配する事も無いよな。まさか、最初から棺桶に眠っている奴を殺そうとする変わり者なんて、俺くらいのもの…。そうだ…これでやっと、俺は誰かの息子とも、代役とも違う…名前も、血縁も関係無く…生きた証をこいつに焼き付ける事が出来る…。そして、俺の最低な姿をこの吸血鬼と一緒に葬って、本当の意味で俺は、誰でもない自分で死ねる。…そう思えば悪くない。例え、こいつの罠にはまって血液を絞り取られたのだとしても、それだって、俺に流れる血脈を保証するものの大半を、こいつに押し付けたのに過ぎない。それに、こんな上等な娘が、俺の存在を捨て去るタイムカプセル代わりっていうのも…悪くない。悪くはない終わり方だよな。)
長い独白の後に、短い溜息。
杯ノ百三十二を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
昨年の今頃は、友人を雀荘に誘い…、
「正月になったら、お年玉で大枚が消える。だから、パス。」
と、振られ、それならばと…一人で雀荘通いを続けておりました。
あの頃を思えば、よくぞここまで社会復帰を果たせたものだと…梟小路として綴った小説たちと、それを読んでやって下さる皆様には、感謝の仕様もありません。
その感謝の気持ちを、小説を更新し続けることでしか表せない非能非才な私ですが…どうぞ、これからも、梟小路の綴る文章をよろしくお願い申し上げます。
それでは、また、次回の『貴女を啜る日々』でお会いいたしましょう。