杯ノ百二十八
青年はそんな、不明瞭さと、陰りの増した洞窟の中で…光を求めたのだろう。
面目の無さから上げる事の出来なかった顔。それを…まるで、沈んだ月の代わりを見つけようとするかの様に…己の存在を照らし、映し出してくれる何かを探す様に…期待に胸躍らせた表情で、童女の容貌を見上げる。
しかし…彼女が居るべき…青年が、童女の頭があると信じて語り掛け続けた場所には…もう、彼女の面影すら残っては居ない…。
天井に残された月明の燃え滓を見上げる様に、杭から離れ、倒れ伏していく童女。
青年はその姿を、朝焼けに消える星を見下ろす様に、目で追いながら…、
(また…かよ…。また、通り過ぎて行くのか…。)
手の中を、杭の表面をすり抜けて行く童女の存在。
今しも失われる感触を、皮膚の下の、骨の更に下にある何かに…青年自身が成長と共に重ねてきた年輪の様な、ある種の芯の様な部分に…塗り重ねては焼き付け、焼き付けてはまた、塗り重ねる。
こうして、ただ静かに…自分の中で虚しい空白が層を成していくのに耐えている、彼を目の当たりにしていると…ほんの薄皮一枚分ほどにしろ、青年の苦悩が、孤独でさえも居られなかった絶望の息苦しさが伝わってくる様だ。
彼はきっと、自分以外の全てに、そして誰によりも自分自身に向かって『悲鳴』を上げていたのだろう。『放って置いてくれ、さも無ければ貴方という存在にしてくれ。』と…。
だからこそ、童女という存在にも、『自分』という存在にも成りそこなった青年の瞳は、こんなにも寂しさに満ち溢れている。
グッと、一欠片の重みだけを残して、童女の身体が白木の杭を完全に吐き出した。
その胸に穿たれた、醜いくぼみを描写するのは止そう。
杯ノ百二十八を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
本日は、『貴女を啜る日々』の更新に先立ち、二次創作小説『熔ける微笑』の2パート目、『乙』を投稿いたしました。
文章を読みつつ暇つぶしを…と、お考えの皆様は、どうぞ、目を通してやって下さいな(^v^)
それでは、また…何とはなしに、佳境っぽい展開を見せ始めた『貴女を啜る日々』ともども…梟小路の綴る文章を、よろしくお願いいたします。