杯ノ百二十六
遂には、引き摺り出される杭の反動で、起こされていた童女の上体が…後方へと傾く…。
そんな事とは露知らず、今でも童女の顔があると確信して疑わない虚空へと、青年はありったけの朗らかさで冗談を飛ばす。
「そういう意味では、生き物としてはあんたを尊敬できる。哀れな被食対象…あっ、勿論、俺のことだけどさ…それを目の前にしながら血を吸い続けているっていうのに、あんた…いつまでたっても寝惚け眼だもんな。いやいや、俺は何も、顔をしかめて食事してくれと言う積りはないんだ。女には、顔に皺が出来るとか、不測の事態への譲れない心構えなんかもあるだろうしな。それに、あんたは無表情でも充分に魅力的だよ。その点に関してだけは文句の付け様も無い。例え、あんたに仕組まれて俺がここに居て、あんたに血を与える為に、この杭を手離せなくされたんだとしても…憎らしいし、腹立たしくもあるけど…あんたって造形が完璧だって事は、あんたを美しいと思う感性だけは間違いはなさそうだ。俺はそれを拠り所にしながら、訳の解からない俺の意識を道連れにあの世逝きだ。…血と、肉は…あんたにとっては、ちょっと余分な物が多いって事になるが…それを…俺を…あんたに譲っていくとしよう。…美人な、あんたに…。」
言い終えた途端に、ガクリッと、青年の首が垂れ落ちた。
…とうとう、事切れたのか…。いいや、青年はどうにか命の端緒を繋ぎとめている。しかしながら、彼が生死の瀬戸際に居るのは疑う余地も無い。
そして…青年自身が、その瀬戸際で踏み止まろうという意志を、繋ぎ止める気が無い事も…。
死に際の酔いが、青年を褒め上戸に変えた。
杯ノ百二十六を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
本日は、当『貴女を啜る日々』の更新に先だって、以前より告知させて頂いておりました『熔ける微笑 甲』を投稿いたしております。
『二次創作小説』、『ヤンデレ』などがメインの、特異なジャンルと成りますが…どうぞ、お暇の折にでも目を通してやって下さいな(^v^)
それでは、また、次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。