杯ノ百二十五
青年の話す間にも、着実に、童女の胸元から引き抜かれていく白木の杭。
童女の喉元辺りから微かに、ヒューッ、ヒューッと、気の抜けた様な音が漏れ始めているのだが…彼女の悲鳴に掻き消され…そもそも、鼓膜に小さな穴が開いている青年には、聞こえるはずもない。
それでも、青年が顔を上げたならば、崩れる岩壁の裂け目が浅く、極々表面の部分に限られて来ている事に気付けたのかも知れない。
しかしそれも…仮に青年に余力が有ったとして、適わなかったであろうな…。俯く青年の表情を見ていると、どうしてもそんな思いに駆られてしまう。
童女に顔向け出来ないと、苦笑いを浮かべながら俯く青年の表情を見ていると…。
「自分の鈍感さに呆れた半面…安心したっていうのも本音かな。『化け物とは言え、寝込みを襲って命を奪う様な真似は出来ない』…みたいな博愛主義が、ビビった途端にあんたの肋骨ごと砕けたてしまった。我ながら、とんだ聖人君子も居たもんだと、嫌な気分になったけどな…最初から、『殺す腹積りじゃ無かったんで、その気に成らなかった。身の危険を感じて、思わず手が出た…オマケに杭も出た。』なら、多少は、心持も悪く無いだろう。まぁ、ブレーキを踏んだ後に、アクセルを踏み付けたのと…ニュートラルの状態から、きっちり自分でギアを入れて、アクセルを踏み込んだか位の違いはある。少なくとも後者なら、俺はあんたへの害意を…肯定はしていなかったにしろ…否定だってしなかった訳だからな。善人面しているよりは、寝惚けた顔していた方がよっぽど良いって…。」
青年の言の葉群れの間を、サワサワッと、しゃがれた笑い声が揺れる。その折々、枯れ落葉の如く、右肩が下りていった。
杯ノ百二十五を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
気付けば…すでに一年…の、三分の一を超える日数、連日投稿をこなし続けているのですねぇ。
梟小路自身、『よくやるなぁ』と感心しつつも…一体、いつになったら『吸血鬼』との意思疎通が描写されるのやら…キャラクターに名前が付くのやら…と、『即興小説』の当て所も無さには、少々、途方に暮れても居ります。
まぁ、『当て所が無い』から、目標が無いからこその『即興小説』。とりあえずは、楽しんで執筆できている現状を維持して、明日以降も頑張りましょうかね(^v^)
それでは、また、一話を楽しめばそれが全てに繋がる、次回の梟小路の綴る『貴女を啜る日々』でお会いいたしましょう。