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杯ノ十二

 枠に押しつけられる様に、乱暴に閉まるドア。靴の中で縮こまっていた足の指にまで振動が伝わって来る。

 青年は肺に溜まった堅い息を何とか吐き切ると…今閉じた目の前のドアでは無く…手近な、自分の左手のすぐ傍に有るのに気付いていたドアノブを掴む。

 それから…焦る気持ちを抑える様に…勤めてノロノロとそのドアを押し開けた。

 ドアが開ききるのを待ちきれぬと、懐中電灯の光が中へと入り込む。光は、よく磨きあげられた光沢のある何かの上で、眩い焦点を結んでいる。

 青年はそれが何かに心当たりが有ったようだ。左手をドアノブから離すと、後は、ドアが自然に開くのにまかせながら、じっくりとその何かを注視する。

 (これは、マントルピースってやつか…とすると、暖炉があるここが、客間ってことに成る。)

と、青年は懐中電灯の灯りをそのままに、首だけ後へと向けた。

 一階ホールの床に使われていたものと同じ、高級そうな大理石のマントルピース。その棚状の部分の上で光が水面に映る様に乱反射して、ぼんやりと青年の居る通路を照らし出す。

 その薄光を頼りに目を凝らせば…今、青年が前に立っているのと同じ様なドアが幾つか…闇の中から浮かび上がってきた。

 (どうやら、間違い無く親父の足跡を踏んで来ているみたいだな。…10年は前の記憶で所々はっきりとしないが…確か、親父はこう言っていた。)

 青年が今度は、首は後ろに向けたままで、身体の方を後ろに向ける。一筋の光線が木造の床の上を走り、板の継ぎ目に染み込んでいく。そして壁に見えていたはずのドアの列は、また、待ち人の無い静謐な闇へと沈む…。

 青年は疲弊した満身をふらふらと揺らしながら、客間の並ぶ通路の奥へと歩き出した。

 今回も七百字ぴたり…っと、言う訳で…次回からは、七百字未満だった時に大げさなリアクションを綴るためにも、七百字ぴたりで連投が続いている場合、特に文字数には触れないことにします。流石に飽きました(^v^)…いや、何なら後書き書かないって選択肢もあるんですよね…それは重々承知してますです…はい…

 それでは、多分七百字ぴたりな、次の『貴女を啜る日々』でお会いいたしましょう。この度も読んでやって下さって、ありがとうございました。

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