杯ノ百九
それは、レバースイッチを引く様な手応え。その感触に加えて、真っ直ぐに伸びきっていた右肘にわずかな余裕が生まれた。
たったそれだけの事で…たったそれだけの筋線維の収縮でも…瞬時に緩みの生まれる青年の胸の内。
しかし…どうやら、胸の内にゆとりが出来たのは…青年だけでは無く、童女も同様だったようだ。勿論のことそれは、青年の様な精神的なゆとりでは無く、物理的な…胸先三寸辺りに生まれた、空間的なゆとりの事ではあるが…。
兎にも角にも、互いの胸の内に生まれた各々の『ゆとり』。それが両者に、相反する二様の成り行きを与える事に成る。
詰まるところそれは…青年に弛緩を、そして、童女には緊張を…。
だから青年は初め、目の前が唐突に暗くなった原因は自分の気の緩みにあると、貧血による立ち眩みの様なものだと思っていた。…それ故、耳鳴りの音が一際大きく成っているのに気付くのが、遅く成ってしまう…。
青年がそんな、童女の物言わぬ肢体に訪れた『緊張』に気付いた切っ掛け。それは…この洞窟の寒さを助長する、火勢を強めた蝋燭の炎…その産毛を焼かれる様な感覚が、弱まっていた事であった。
(少し…蝋燭の火が小さくなったか…。『悲鳴』の音の波が、火の振動数から外れた…そして…その理由は…また俺は、余計な事をしでかしたのかよ。)
と、手元すら怪しく成る様な暗闇に逆戻りした洞窟で、青年が笑気を吐き出そうとした…その瞬間だった。
バチンッと、ブレーカーの落ちる様な音が辺りに木霊する。そう…それこそが、童女の緊張がピークを迎えた事を告げる衝撃音…。
そして、その音を境に洞窟内は、再び、息詰まる無音と化した。
杯ノ百九を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)
ここしばらく、当『貴女を啜る日々』では、ややグロテスクな描写が続いておりました。
それで…小説のジャンルに『残酷描写あり』の警告文を付けようかと、思案したのですが…結論から先に申します。
『貴女を…』では、小説情報に『残酷描写あり』の警告文を記載いたしません。
理由は、『残酷描写あり』の触れ込みを気にして、梟小路がグロテスクな表現寄りの『即興小説』を書いてしまう事を嫌った為です。…やっぱり、『残酷描写』の看板を掲げてしまうとなると…それを目当てに読んで下さる方の要望に応えねばと…成りかねませんのでねぇ。
と、まぁ、完全に事後報告と成ってしまいましたが…109話目までの時点で『グロいなぁ…。』とお感じの方が居られましたら、対応が後手に回ってしまった事、心よりお詫びいたしますm(__)m
それではまた、何のかんの言っても、『グロテスクさ』って小説描写の華って気もしていたりの、次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。