表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/1045

杯ノ百五

 耳に押し宛てた左手、右腕諸共に、鼓膜を爪で掻きむしられてでもいる様な、頭蓋を削らんばかりの耳鳴り音。その断続的に訪れるノイズの痛みに、青年は息も絶え絶えに成りながらも…わずかな呼吸の機を逃すこと無く、容赦なく鼻腔へと入り込んでくる甘い匂いに苦笑を漏らす。

 (…お誂え向きだ。やっぱり、こうで無ければいけないよな。俺はまな板の上の鯉をさばきに来た訳でも、物言わぬ死体に穴を開けに来た訳でもない。母さんが俺に焼き付けて逝った無念を…恨みの業火の…その残り火の熱さを伝えに来たんだ。しかし…そうは言っても、無抵抗の、それもこんな(はかな)げな容姿をした娘を本気で殺しに掛るのには、正直、抵抗があった。だが…例え、相手がどれほど可憐な少女だとしても…そいつが俺の血を吸い尽くそうとしている…甘く香ばしい体臭で人間を罠へと誘い込む、吸血鬼だとしたら…話は別だ。)

 そんな事を頭の中で呟きながら、青年は含み笑いと一緒に、肺の中の空気をすっかり使い切ってしまった様だ。

 そして青年は…これだけは口で言わねば気が済まぬと決意した言葉…それを発する為に、再び肺へと空気を送り込み始めた。

 彼とて、吸い込めば死期を早めるであろう瘴気の存在を、何より、自分の声帯の振動などあっさりと童女の『悲鳴』に掻き消されるであろう事を、充分に承知している。そんな事は先刻承知の上でなお、冷え切った表情筋を変える事の労力を、乾き切った喉を震わす痛みを、そして、喋るという行為の陳腐な充実感を得ることを選んだのだ。

 それにしても、この洞窟に入り込んでからこっち、青年は我知らずの内に息を潜めていたが…気兼ね無しに吸い込む空気の、何と美味い事か…。

 杯ノ百五を読んでやって下さり、ありがとうございました(^v^)

 前々より、『貴女を…』の場面が洞窟を抜けたなら、『小説家になろう』さんに登録されている作家さん方の作品に、感想や、レビューをお寄せしようと思っていました。

 そう、洞窟を…洞窟を抜けたなら…ですよ…。本当に、いつになる事やら…。

 まぁ、あんまり考えたくは無いですけど、年内に洞窟を抜けなかった場合は、三が日にでも書かせて頂きましょうかね。それもまた、見込み薄な話ですけども…。

 それでは、また、場面はどうあれとにかく続く、続くったら続く、次回の『貴女を啜る日々』でお会いいたしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ