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杯ノ千二十五

 語尾に続く、照れた様な笑い声。そっちに気を取られ月紫は、一体何が、何の冷たい感触が、彼の記憶から『鉄棒』のイメージを『担ぎ出した』のか見落としたらしい。…女性の腕を例える表現は数あるが、これほど不適当な…あるいは、不穏当な暗喩もなかろう。

 ガッシリッと、鉄製の棒きれで…もっとい、へこたれる事を知らない細腕で、静馬(しずま)述懐(じゅっかい)を支えながら…。今にもでんぐり返りそうな、彼の上体に気を()む、月紫。

 そうして胸を突く圧迫感に、瞼を引く重力に、静馬は笑みを深めた。

 「いつまで経っても、逆上がりが出来なくてさ…。大人に成ってから思い返すと、『腹へ押し付けた鉄棒を軸にして、後ろ回り』くらいの事が、どうして出来なかったのか。足蹴り上げて、勢いさえ付いていれば、何て事ないはずだ。…って、思う。けど、それだけの話が…大人の口から聞かされる理屈が…何でか、理解できなくてさ…。」

 不意に口籠って、胸倉を彼女の腕へと押し付ける。理屈では、『腹を鉄棒に押し付ける』はず…大人に成っても、解らないままの事があるのだろう。

 月紫だって、数百年生きていると言うのにまだ、『自分の腕が鉄棒扱いされている』とは気付いていない。ただただ、静馬の言わんとする『気持ち』ばかりがひしひしと伝わって…握った右手を(ひる)ませる。

 そんなグラつく細腕越しに、瞼越しに落とした『視線』が、蹴散らかされた足元を見せたのかも知れない。彼女が引っ被った『困惑の砂』を払うかの如く、静馬が吐息を零した。

 「そう言えば…鉄棒って言われても解らないか、吸血鬼のあんたには…。公園とか、学校とかで過ごす、昼間の生活は、縁がないだろうしな。」

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