杯ノ千二十一
尋ね返す彼女に、頷き返す、静馬。
口寂しい…もとい、掌寂しくなった右手でまた、彼の左手を摩りつつ…。月紫は心動かされた様子で、小首を傾げた。
しかしながら、彼の最後の一言は…冗談めかした言い回しは、よろしくなかったな。
まるで、『見たくもないから』と塞いだ瞼に付け足す様な話し方。撫でている傷口まで、吹き出し、笑ったみたいに感じられる。
唇を結び、黙って傾げた首を起こす。それから月紫が、キュッと、静馬の左手の甲を抓った。…感覚が麻痺しているとは言え、とんでもない事をする…。
「そうまで勧めてくれるのなら、静馬の言葉に甘えさせてもらおうかしら。」
「あぁっ…。あんたの口から言ってやってくれ。俺に話して聞かせた『お伽話』の成果の程をさ…。んっ…。」
頷き、俯いた拍子、痛みはなくとも、何となく左手の皮が突っ張っているのを感じたか。やや怪訝そうに声を漏らした、静馬。…まっ、そのお陰で、彼女の震える声を引き締められたのだ。別段、言うべき事もないな。多少、噛み跡から血が滲んでいるくらいで…。
大息を付き、月紫は緊張の面持ちのまま抓んだ手を放す。この際、染み出した彼の血を人差し指で掬って、ペロリッ。お呪いでもする様に、舌を湿らせる。
「…じゃ、じゃあ、今から…今からは、勇雄に話すわね。」
低く、潜めた声付き。舌の軽い奴の血の、霊験はもう一つだったらしい。
静馬は俯いたまま、返事をせず、彼女の『気持ち』が溢れ出すのを待つ。そんな態度もまた、血で乾いた舌に緊張感を添えるのだろう。
ゴクリッと生唾を飲み込み、そして…月紫が口を開いた。




