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杯ノ千十二

 「どうって…。」

 彼女の言わんとしている事が、静馬には解らない。しかしながら、解らないなりに…とにかく左手を動かさなくては…そんな思いが込み上げてくる。

 守ってくれようとする彼の『気持ち』を、脈動を左の親指で感じながら…。月紫(つくし)は緩みかけた口を真一文字に結んで、咳払いを一つ。

 「私の血も、肉も、静馬の一部になるため存在している。だから、飲み込んだのが『吸血鬼を食べる生き物』の血なら、平気で吸収してしまうでしょう。けれど、それが吸血鬼の血だったら…消化しようとするのじゃないかしら。人間の様に…。」

「言っている意味が…何で、そんな…。」

 まつ毛を震わせ、舌の根に溜まった生唾を飲み込めずにいる、静馬。

 そんな彼に対して…首を縦に振って良いものか、横に振って良いものか…月紫は思案の末、小さく微笑んで見せた。

 「吸血鬼の身体は、飲んだ人の血を吸収する。吸血鬼の血と言う形に変えて。飲んだ血が吸血鬼のものであっても、それは変わらない。それじゃあ…。『食べられる為の吸血鬼』はどうやって、食べたものを吸収するのかしら。食べたのが血液であれば、自分の血に置き換えてしまえばいい。けれど、『人間の食べもの』は…やっぱり、人間と同じで、消化しているのだと思う。消化して、人間の血にしてから置き換えている。私はそう思うの。」

「もし、そうなら…あんたの予想が正しかったとしたら…吸血鬼の血を飲んだあんたは、どうなる。」

 「はっきりとした事は、飲んでみないと解らないわ。お腹の『人間の食べもの』が無くなる前に…。けれど、私は今でも、吸血鬼の端くれ。その私の体内で、『吸血鬼の血を、人間の血にする』なんて事態が起きれば…。」

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