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杯ノ千

 月紫(つくし)の涙は、あまり良い気付け薬に成らなかった様だ。ぶり返し始めた目の痛みで、じわりっ、じわりっ…静馬の瞼の縁が潤む。

 「あんたが、悲壮感たっぷりに言うだろ。だから、てっきり、『俺は人間に戻った。それで戻った途端に、出血多量やら、何やらが(たた)ってお陀仏(だぶつ)』…くらいの流れはあると、予想していたんだがな。当てが外れた。」

 やや残念そうな口振りでそう言った後に、左腕で感じる肩を(すく)めた気配。彼にも、ちょっとした悪意はあったのだ。月紫が哀しむだろう事も知っていた。…それだからもう、これで十分。

 彼女の反応を受けて感じた不安。掻き乱された胸中も十分に、穏やかさを取り戻している。そもそも、彼の意固地さだって、事態をややこしくした一因に違いない。

 静馬は皮肉っぽい微笑みを緩め、(きし)んで返事も出来ない彼女の心へと、踏み込んで行く。

 「吸血鬼として生きるのはそんなにも、辛いのか…。」

 声付きは平板で、優しさに乏しい。しかしながら、月紫の肩に回された腕と同じで、力強く、背中を押してくれる。

 もしも、『押された拍子』で彼に触れられたなら…右手を彼の頬に寄せられる様な女だったなら…月紫は今夜、この洞窟の中に居なかったであろう。彼女自身、それをよく解っている。そして、そんな自分の思いを、心のどこかで愛おしくも思うのだ。

 (私には、たくさんの『触れられなかった』ものがあった。私を残して去って行く、勇雄(いさお)の背中に触れられなかった。勇雄と聖子(せいこ)…人間として生きる二人の時間に触れられなかった。静馬…貴方が生まれる瞬間にも、私は触れる事が出来なかったわね。…我慢したのよ、私…。)

 『貴女を啜る日々』、1000話目に到達しました/(^o^)\ナンテコッタイ

 一体、いつまで洞窟に引きこもってんだよ。『杯ノ千』って…どんだけ飲んだくれてんだよ。勘弁してくれよ。

 まぁ、『即興小説』ですから、『ネタに詰まる』なんて事とは無縁です。しかし…。

 1000話も書いていたら、流石に、『貴女を…』の執筆が一つの習慣になる。そうなると、頭の片隅にはいつも『次の話を書こう』なんて意識が…。だから、考えない様にしていても…起き抜けに、風呂に入っている時に…過ってしまう、『ストーリーの続き』が止められない。

 当然、『即興』を謳っている以上、考えて良いのは『その日の一話分』の『あらすじ』のみ。他で思い付いた『展開』は避ける。それがルールです。

 …ですが、使用不可の『展開』群を避けて、避けて…通れる道筋だけたどって書いた小説が、果たして、『即興小説』と呼べるのか。

 いや、もう、本当、こんな面倒くさい悩みをこそ避けられるよう、切に、切に…いい加減、一区切り付いて下さいな、私の小説さんよ(^v^)煩悶のあまり、夜行性に戻らんとも限らんぞ。

 著者の苦慮を眺めて下さった皆さん、お目汚し失礼いたしましたm(__)m

 もし手頃な目の保養をお探しの折は、そして、もしよろしければ…次回の梟小路の綴る文章でお会いいたしましょう。

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