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その6

ロウは剣を構えた。

十八年前、王より賜った剣を。

長い年月を経て、装飾の輝きこそ失われかけているものの

その刀身は水に濡れたかのような輝きを保っていた。

いつどこで抜き放つことがあっても良いように、

ロウは毎日手入れを欠かしてはいなかった。


対するソアックは、抜き身の剣をだらりとぶら下げている。

まるでこれから稽古でもするかのような気楽ささえ感じられるほどに、

彼の立ち振る舞いからは余裕が見えた。


「さあ、かかってくるが良い……賊が!」


「賊だと? 姫をかどわかした異形の親玉が……この俺を、賊だと?」


瞬間、ロウは駆けた。

普段の彼であれば冷静に相手の出方を見たであろう。

しかし、彼は激昂していた。

と、同時に喜びもしていた。

ここでこの異形を倒せば姫を救い出せる。

そう思うと、じっくりと相手の出方を待ってなどいられなかった。


ソアックが片手で剣をぶら下げているの見て取ったロウは、打ち下ろしの斬撃を放つ。

片手持ちでは受けられないだろうと判断しての一撃だった。

しかし、ロウの予想を裏切り、ソアックはその一撃を片手持ちの剣で受け止める。


金属と金属の噛みあう、甲高い音が響く。


「大した膂力だな、異形」


「……所詮人間のする事よ!」


そう言うとソアックは、空いている左手に力を込める。

まずい。そうロウが感じて体を捻った瞬間、彼の脇腹を衝撃が掠めていった。

捻った反動を利用し、ソアックを蹴飛ばし、間合いを取る。

(これは、痛むな)

ロウがそう覚悟した直後、痛みとも熱さともつかない感覚が脇腹に襲ってくる。

ソアックの手刀は、鎧ごと皮膚の表面をはぎ取っていた。


「フン……その程度か?」


侮蔑するような笑みを浮かべるソアック。

左手に付いた血を振り払い、ロウに向き直る。

その爪は人間のものとは思えないほど鋭い輝きを放っていた。


(俺の鎧は、竜の皮をなめし、竜の鱗を貼りつけて作られている。

それをこうもやすやすと抉れる奴の爪は……やはり、竜の爪か)


「貴様か。貴様が、姫をさらった、四翼の竜か」


無言でロウを見つめるソアック。

言葉の代わりだ、と言わんばかりの殺気がソアックを包む。


「賊ごときに、語る言葉など無い」


そう言った瞬間、今度はソアックが間合いを詰めた。

右手の剣でロウのバランスを崩し、左手の爪で攻撃を仕掛ける。

あたかもそれは二刀流のような戦い方であった。

一刀と二刀の戦いの例に漏れず、ロウは防戦を強いられた。

剣をいなして攻めようとしても、左手の爪が防御を兼ねた攻撃を仕掛けてくる。

押し込まれこそしないものの、細かい斬撃によってロウはキズを負わされてしまっていた。


「そろそろ決めてやろう! 愚かな人間め!」


ソアックの攻撃はそれまでよりもさらに速い速度でロウを攻め立てる。

ロウも必死に反撃するものの、ついにその剣はソアックの左手に押さえつけられてしまった。


「く……」


「この距離ではもはやかわすことなど出来ぬな! 死ね!!」


ソアックがロウの首に向けて剣を繰りだそうとしたその瞬間、ロウが動いた。


「死ぬのは……貴様だ!!」


そう言うとロウは剣を抑えつけられながらも、剣の柄頭を捻った。

するとロウの持つ剣の鍔から、緑色の液体が噴出された。

その液体は、至近距離にいたソアックを包みこんでしまった。

その液体を浴びたソアックは、一瞬びくりとした表情を浮かべ、

次の瞬間、頭を抱えて呻き出した。


「ぐ、ぐああぁぁ!! こ、これは……!!」


「やはり、貴様は竜であったか。高位の竜は人の形を取れると聞いていたが……」


「な、なんだ、これは、一体、お前、何をした!!」


目に液体が入ったのであろうか、目を擦り、剣をがむしゃらに振るいながらソアックが叫ぶ。


「言っただろう? 俺は十八年間ずっと姫を探し続けていたのだと。

そしてそれと同じくらい、姫をさらった竜を倒すことを考えていた。

姫と竜はかならず一緒にいる、そう俺は読んでいた。

ならば、竜への対抗策を仕込んでいても、おかしくはないだろう?」


息を荒くしながらロウが語る。

彼の剣に仕込まれていたのは、通称『龍殺しの実』と呼ばれる種子を煮出した液体であった。

その液体を塗りつけた剣で竜を切り裂けば、傷口から耐え難い痛みを与えることが出来るという液体である。

柄を押し込むと鍔から切っ先に向けて液体が噴出される仕組みを、ロウは自らの剣に仕込んでいたのである。


本来、ロウは竜と対峙した際、剣に塗りつけるための仕掛けとして仕込んでいたものであったが、

近接攻撃しかしてこないソアックを見て、液体をソアックにふりかけることが出来る好機を待ったのである。


「おのれ……おのれ人間が! 許さぬ……!! この姿になりたくは無かったが……!!」


「おっと。竜に戻る前に貴様を仕留めてやる。わざわざ変身を待つほど、俺は愚かではない」


剣を青眼に構え直すロウ。

ソアックの皮膚が硬質化し、色を変えていく。

形態を変えようというソアックに向かって剣を振り上げた、その時。


「やめて……もうやめて下さい!!」


声が響いた。

その声は、ロウの剣を阻むのに十分な声であった。



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