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想う日

作者: 姫山 朔

 

 今日は人を想う日。

 街には愛が溢れ、人は甘い匂いに酔う日なのに。

 あなたが泣く声が聞こえたの。


 私は振り返る。

 一人街角で涙するあなたを見つけたの。

 どうしたの。

 なんで泣いているの。

 戸惑う私は途方に暮れた。

 人の思いは難しいもの。

 下手なことは言えないわ。

 私はあなたの隣りに腰を下ろす。


 泣き叫ぶわけではないのに。

 ほろほろと溢れて落ちる涙が地に落ちると、あなたの心が痛む音がした。

 そう、歯車がうまく噛み合わなくて軋んでるような。

 どんなにあなたを癒してあげたくても、

 私はその涙をぬぐってあげることしかできないの。

 ハンカチを渡すことはできても、その涙を止めることはできないの。


 だから、私ができること。

 寂しくないようにささやくように話すこと。


 私が落ち込んでいた時も、

 こうして街の隅で泣いてた時も、

 心をそのまま言葉にして叫んだ時も、

 必ず声をかけてくれる優しい人がいたの。

 

 私はその人の言葉を心にしまって、

 毎日を生きている。


 人は一人じゃ生きられないの。

 そんなことないなんて、嘘。

 だって私は生きられないわ。

 この世界に自分一人だけなんて。


 どんな形でも私たちは、

 誰かと繋がっているの。


 繋がっていたいと願っているのよ。

 必要とされたいと願っているのよ。

 だから私は祈るわ。

 あなたのその涙を止めてくれるような、

 そんな優しい人が現れることを。


 もちろん私もそうなりたいけれど、

 私も私を生きなければいけないから、

 ずっと一緒ってわけにはいかないわ。

 だってそれだと私の人生はあなたのものになってしまうもの。


 なんて厳しいことを言うようだけど、

 言葉にしなくても私はあなたを気にかけているし、

 今日の出会いであなたも私をたまに思い出すようになるでしょう?

 それでいいのよ。


 人は一人では生きられない。

 けれど、一人で道を歩いて行かなくちゃいけないの。

 隣を歩いてくれる人はいても、

 あなたを生きるのはあなた自身なのだもの。


 思った以上に話が長くなって、

 気付けばあなたは私を見ていた。

 あなたはもしかしたらこんな話は望んでいなかったのかもしれない。

 涙は…わからない。

 あなたの顔がぼんやりしてる。

 まるで、水中で目を開けたみたい。

 同情なんかしてないわ。

 だって、あなたの辛さも悲しみも、

 あなただけのものだもの。

 わかるなんて言えないわ。


 だって、私は永遠にあなたになりえないもの。


 ここからは自己満足ね。

 だって返事がわからないもの。

 あなたがいいと言ってくれるなら、

 もう少しあなたの近くを歩いていたいと思うのだけど、

 いいかしら?

 あなたが本当に望む言葉なんてかけられないわ。

 ただ理解しよう、理解したいと、

 私の今までを総動員して「理解できたと思う結果」を言葉にしているだけだもの。


 返事はいらないわ。

 返事がどちらでも、

 私は私が決めた道を歩くもの。

 それがたまたまあなたの近くだっただけよ。

 そのうちあなたの涙が止まったら、

 そのうちあなたの涙を止めてくれる優しい人が見つかったら、

 私はまた私の決めた道を歩くもの。


 今日は人を想う日。

 私は少し人が醸す甘さに酔った。

 誰の特別にもなれていないけれど、

 私はそれで満足。

 だって、

 涙するあなたを見つけることができたから。


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― 新着の感想 ―
[一言] ちゃんと感想を書かなくちゃいけないですね。 ちょっといろいろ考えて感情が溢れてしまいました。 言葉って本当に偉大ですね。 この詩がまるでわたしに向けて問いかけてくるように感じられました。  …
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