第2話 アメイジングソケット
連続投稿はここまでとなります。
「さてと、じゃあ一番重要な、このメモリーチップについて説明しよっか~」
すっかり空になった昼食を片付け、おっとりのんびりと言った感じで命が切り出す。
それを聞いた正樹と佑梨が、居住まいをただす。
「このメモリーチップは、正式名称アメイジングメモリー。アメイジングソケット専用のメモリーチップね~」
「なんですか、その大仰な名前……」
「そもそも、アメイジングソケットって、聞いたことがありません」
命が口にした中二病の香りが漂う名称に、即座に正樹と佑梨が突っ込む。
その言葉に、その突っ込みを待っていたとばかりに満足げに命がうなずく。
「まず、名称については鑑定で判明した内容だから、私に言われても困るわね~。正直、誰が名付けたのかも不明だし~」
「いやまあ、そうなんでしょうけど……」
言わずもがななことを言う命に、思わずジト目を向ける正樹。
鑑定などという聞き捨てならない言葉が出てきたが、そこに突っ込む前に命が話を続ける。
「で、そのアメイジングソケットなんだけど、物理的に存在しているものじゃないのよ~。二人とも、RPGとかソシャゲーみたいなタイプのゲームって、遊んだことあるかしら~?」
「僕は、RPGは普通にやりますね。ソシャゲーはお金かかるからあんまり……」
「わたしも、RPGぐらいはそれなりに遊んでますね~。ソシャゲーは家の方針でだめですし、個人的にあんまり興味もないから触ったことはありません」
「「えっ?」」
佑梨がそれなりにRPGで遊んでると聞いて、不思議そうな声を同時に挙げる正樹と命。
その様子を見た佑梨の表情が、スンッという感じになる。
「あの、お二人はどういう目でわたしを見ているのでしょう?」
「えっと、なんかこう、上流階級のお嬢様って感じだから、コンピューターゲームなんて触ったこともないと思って……」
「そうね~。やってたとして、将棋とかみたいなボードゲームやトランプをコンピューターでやるタイプか、せいぜい経営をテーマにしたシミュレーションゲームを遊んでたらいいところかな、って」
「……まあ、主に遊ばせてもらえるのがシミュレーションゲーム、それも経営とか交易とかをベースにしたゲームなのは事実ですけど、一般的な話題作ぐらいは遊んでますよ?」
あまりの偏見に、思わずそう主張せざるを得ない佑梨。
今どき上流階級の子女であっても、ゲームやアニメと言ったサブカルチャーに一切触れていない人間なんて少数派だ。
さすがに残虐で悪趣味な描写が大量に含まれる作品は触れさせてもらえないが、節度さえ守ればレーティングで問題がない作品ぐらいは遊んでも何も言われないのである。
もっともそもそもの話、佑梨の家自体がそこまでガチガチに上流階級というポジションでもないのだが。
「……まあ、話を戻すわね~。RPGとかでよく、アイテムをセットしてスキルを覚えるとか、覚えたスキルをコストに合わせてセットするとか、あるわよね~。一度異界に迷い込むとね~、そういう感じの画面が呼び出せるようになるのよ~」
「……へっ?」
「……意味が分かりません……」
「まあ、百聞は一見に如かずってことで~、アメイジングソケット解放って言ってみて~」
「「……」」
いきなり羞恥プレイっぽいことを強要され、お互いに救いを求めるように顔を見合わせる正樹と佑梨。
異世界転移ものや転生ものでよくネタにされる、いわゆるステータスオープン的なあれではあるが、誰もいないところでならともかく、人が見ている前でやるのはちょっと抵抗がある。
が、そんな抵抗など命が許してくれるわけもなく、どんどん圧を強めてくる。
「さあさあ~、さあさあ~」
「え~っと……」
「あの……」
「ひと思いにやっちゃったほうが~、恥ずかしさとかいたたまれなさとかは軽く済むわよ~」
「……それも、そうですね~。喜多村さん、腹をくくりましょう」
「……そうだね……」
命に押し切られ、腹をくくる正樹と佑梨。
もう一度お互いの顔を見てうなずき、同時に口を開く。
「「アメイジングソケット、解放」」
口をそろえて言われた通り発声したその直後、二人の目の前に唐突にゲームのスキル設定画面のようなものが現れる。
「わっ!?」
「な、なんですか、これ!?」
「その画面が、アメイジングソケットの設定画面ね~。いろいろ説明とアドバイスがあるから~、まずは全員へ可視化って宣言して~」
「あっ、はい。全員へ可視化」
「わたしもですよね。全員に可視化」
命に言われたとおりに宣言すると、それまで自分の分しか見えていなかった画面が、もう一人の分もちゃんと見えるようになる。
「今のやり方で分かるかもだけどね~、基本的にアメイジングソケットの設定画面は他の人には見えないのよ~。だから、相談とかする時にはいちいち可視化しなきゃだめよ~」
「……毎回、これをやるんですか……」
「次からは、声に出さなくても大丈夫よ~。最初の一回は声に出す必要があるけどね~」
正樹のうんざりした様子に、苦笑しながらそんな情報を教える命。
命の教えを聞き、試しに消えろと念じてみる正樹。
正樹の目の前から、アメイジングソケットの設定画面が消える。
「あっ……」
「消えましたね……」
「ってことは……、よし、出たな」
「あっ、今表示されてるんですか」
「ん? ああ、そうか。全員に見えるようにって念じてなかったから、僕にしか見えてないのか……。……これでどう?」
「見えました。わたしもやってみますね」
「うん」
正樹が無言で設定画面を出したり消したりしたのを見て、佑梨も試してみる。
正樹が一発で成功させただけあって、佑梨のほうも特に苦労することなく簡単に表示のオンオフを成功させる。
「……これ、むしろ間違って表示させないようにする練習が必要かもしれません」
「……そうかも」
割と過敏に画面が出たり消えたりするのを見て、そんな感想を持つ佑梨と正樹。
それを見ていた命が、少し時間をかけたほうがいいと判断して口を開く。
「じゃあ、次の説明に行く前に、ちょっと練習する~?」
「あ、いいんだったらやっておきたいです」
「わたしも、練習したいです」
「じゃあ、思う存分練習しちゃって~」
「「はい」」
命の勧めに従い、アメイジングソケットの設定画面の表示操作をいろいろな実験をしながら延々と練習する正樹と佑梨。
結局、二人が納得するまで三十分ほどかかるのであった。
「練習も終わったみたいだし、次行くね~」
「はい」
「お願いします」
正樹と佑梨がようやく落ちつたのを見て、命が次の説明に移る。
「次は、アメイジングソケットの項目の説明。見てわかると思うけど、アメイジングソケットは基本的に上から、クラス、ジョブ、アビリティ、タレント、スキル、エクストラ、フリーの七項目があるの」
順を追って説明するため、まずは画面を見ればすぐわかることから説明を始める命。
こういうのは様式美のようなものだし、見てわかることだからと省略するとそれはそれで後からくだらない問題につながったりしがちだ。
なので、丁寧にやっておくに越したことはない。
「各項目についてはなんとなくわかると思うけど、詳しく説明していくわね~。まずは、クラスソケットとジョブソケット。ゲームでおなじみの、職業関係のものね~」
「転職システムがあるゲームの、同じ名前のものと一緒ですか?」
「そう考えてもらって大丈夫よ~。じゃあ、なんでわざわざクラスとジョブがあるかっていうとね~、クラスは職業のカテゴリー、ジョブは個別の職業だと思ってくれればいいわ~」
「えっ? そこがわざわざ分かれてるんですか?」
「わざわざ分かれてるのよ~。クラスに関しては、最近ではロールって言い方のほうが一般的だと思うけど、なぜかクラスって呼称になってるのよね~」
驚きのシステムに、腑に落ちないという気持ちを前面に顔に出す正樹。
それに苦笑しつつ、説明を続ける命。
「詳しいことは実際に職業を覚えた時に説明するとして、クラスは現在物理、魔法、回復、斥候、生産の五つが確認されてるわね~。この中の、セットしたクラスに対応するジョブしかジョブソケットにセットできないから注意してね~」
「クラスのカテゴリーって、そういう意味ですか」
「そうそう。で、ジョブは説明しきれないほどあるから省略するけど、どのジョブも最低どれか一つのクラスに属しているわ~。中には魔法戦士みたいに、二つ以上のクラスに属するものもあるのよ~」
「二つ以上のクラスに属するっていうことは、どちらかのクラスをセットしていればそのジョブになれるのか、それとも両方セットしてないとだめなのか、どちらですか?」
「両方必要なパターンね~。後、クラスもジョブもレベルが存在するけど、これについても後で説明するわね~」
「はい」
今のうちに聞いておくべきことを聞き、おとなしく次の説明を待つ佑梨。
後で説明するという点に佑梨が納得してくれたのを見て、命は次のソケットの説明に移る。
「次はアビリティ、タレント、スキルね~。この三つも大体似たようなものなんだけど、アビリティは特殊能力、タレントは才能、スキルは技能ね~。分類的には普通は努力で習得できない特殊能力としか言えないものがアビリティ、本来は生まれ持った才能であるはずのものがタレント、訓練や努力で習得できるものがスキルと思ってくれればいいわね~」
「あの~……。スキルや特殊能力はまだしも、生まれ持った才能を後からセットできるって、意味が分からないのですけど……」
説明を聞いて、真っ先にそう突っ込む佑梨。
世の中には、才能の壁で挫折した人間なんて山ほどいる。
そんな人間からしたら、才能を後付けできるなんて理不尽にもほどがあるだろう。
「というか、そんなことできるんですか?」
「できるから、アメイジングなんじゃないかしらね~。名前の由来は知らないけど~」
「というか、それって人体改造の類ですよね……。大丈夫なんでしょうか……」
「大丈夫かどうかは分からないけど~、設定画面を開けるようになった時点である意味人体改造が終わってるからね~。もう、手遅れよ~」
「あっ、ハイ……」
正樹の不安をばっさり切り捨てる命。
異界に迷い込んでアメイジングソケットを解放した時点で、そのあたりは手遅れである。
「それで、残りのエクストラとフリーだけど、エクストラソケットは後付けでシステムを拡張するためのソケット、フリーソケットは全ての種類のメモリーを一時保管するソケットね~。エクストラはジョブやスキルと同じぐらいいろいろあるけど~、代表的なのは設備と種族ね~」
「種族は分るとして、設備?」
「そう、設備~。これがだいぶ意味が分からないシステムでね~、知っている中で一番すごかったのが、何もないところに大型プレス機を呼び出したケースかな~」
「「大型プレス機……」」
生産工場勤務でもなければ、おおよそ日常生活で聞くことはないであろう単語に、思わず声をそろえる正樹と佑梨。
その反応に、そうだろうなという表情でうなずく命。
「まあ、意味不明だろうと思うけど~、そこはそういうものだと思ってね~。で、一通り大まかな説明が終わったところで、アメイジングメモリーの使い方ね~。これに関してはちょっと面倒な手順が必要なのよ~。まずは、持ってたメモリーをフリーソケットに挿してね~」
「「はい」」
いきなり使い方に話が進んだことに、特に文句も言わずに従う正樹と佑梨。
突っ込みどころはたくさんあるが、命に突っ込んでも無駄だと学習したようだ。
「それにしても喜多村君のフリーソケットは、初期状態とは思えないほど多いわね~」
「数が多くて、何かいいことがあるんですか?」
「異界では、いわゆるアイテム類も基本的にアメイジングメモリーとして手に入るのよ~。で、手に入れたアイテムを使うために、フリーソケットに挿しこむ必要があるのよね~」
「……えっと、付け替えたクラスとかジョブも、フリーソケットに挿さなきゃいけないんですよね?」
「習得が終わってないアビリティやタレント、ジョブなんかも、別のものに付け替えるためにはフリーソケットに挿さなきゃいけないわね~」
「……それって、最終的にこのフリーソケットがものすごく圧迫されません?」
「そうなのよ~。フリーソケット自体は他のソケットと違って、割とちょくちょく増えるんだけどね~。それでも本気でやりくりに苦労するから、多いに越したことはないわね~」
フリーソケットの数について、そんなことをしみじみと言う命。
その言葉に、これから先の苦労を予感して遠い目をしてしまう正樹。
というのも、正樹の各種ソケットは、フリーとエクストラこそ佑梨より多いものの、クラスとタレントは同じ五つ、ジョブ、スキル、アビリティに至っては三つしかない。
つまり、それだけ何度も付け替えをしなければいけないということで、アイテム類の保管まで考えると早々に満タンになる未来しか見えない。
「それで、メモリーは挿し終わった?」
「あっ、はい」
「こっちも終わりました。これ、確かにソケットですね」
命に言われて、作業を終えたことを告げる正樹と佑梨。
佑梨のほうは何やら、挿し込んだ時の作業や感触で名称について納得していたりする。
「じゃあ、次の作業ね~。挿し込んだ時点で、メモリーの色が上のソケットのどれかと同じ色変わるでしょ~? 同じ色のソケットにさすことで、メモリーの効果が有効化されるわ~」
「緑だから、アビリティソケットか……。これ、何のアビリティかとかは分からないんですね……」
「フリーソケットに刺した時点でそれを知りたいなら、鑑定のアビリティが必要ね~。ちなみに鑑定がスキルじゃなくてアビリティなのは、分かる内容や情報開示の流れがゲーム的な感じだからみたいよ~」
「へ~」
「この手順があるから~、わざわざソケットの種類の説明から始めたのよ~」
「なるほど」
命の豆知識を聞きながら、アビリティソケットにメモリーを移し替える正樹。
次の瞬間、このアビリティが何か、頭の中に浮かび上がる。
「ステータス画面か……。っていうか、アビリティソケットが解放されただけじゃ、ステータス画面とか見られないんだ……」
「そうなのよ~、意地悪な設計でしょ~?」
「というか、喜多村さんもステータス画面だったんですか?」
「相沢さんも?」
「はい」
偶然にしては出来すぎな内容に、目を丸くする正樹と佑梨。
それを聞いた命が困った顔をする。
「二人ともステータス画面か~。ある意味では大当たりだけど~、それだけでは異界の攻略には心もとないわね~」
「ですよね……」
「こう言っては何ですが、喜多村さんは学力はともかく、戦闘とか生活とかの能力はわたしと変わらない感じですからね~」
「さすがに、小学生女子に負けるほど腕力は弱くないとは思うけど、まあそうだろうなあ……」
佑梨の失礼な言い分に、渋い顔で同意する正樹。
インドア派というほどではないにしても積極的に運動をするタイプでもないので、運動能力という面では佑梨と大差ないというのは否定できない。
というより、佑梨が合気道なり護身術なりを学んでいるのであれば、腕力以外の面では完全に負けている可能性が高い。
「なんにしても、ステータス画面は長期的にはないと死活問題だけど~、今の時点ではそんなに有用じゃないのは間違いないわね~」
「もしかして、詰みました……?」
「そうならないために、私がいろいろ説明してるのよ~。それに、結局現状だと何を引いたところで、メモリー一個では大した差はないわ~」
不安そうな顔をする佑梨に、真面目な顔でそう告げる命。
この言いようだと、異界攻略に即座に役に立ちそうなスキルやアビリティを引いていても、一般的な未成年である佑梨たちが大きくパワーアップするようなものではないらしい。
となると、それはそれで不安ではある。
「せっかくステータス画面を手に入れたんだから~、ここから先はステータスをもとに話を進めるわね~。ただ、その前に~」
「「その前に?」」
「単にアビリティソケットにメモリーを挿しただけだと、いわゆる未収得状態で名前と性別と年齢ぐらいしか分からないから~、さっきアメイジングソケットの設定画面でやったように、いろんなやり方で表示のオンオフを繰り返して習得しちゃって~」
さあこれから、というタイミングで、恐ろしく不便で不親切な仕様に言及する命。
それを聞いて、絶望的な顔をする正樹と佑梨。
「ちなみに~、アビリティとタレント、スキルは習得が完了したらソケットからメモリーが消えるから、すぐに分かるわよ~」
「それって、一度覚えたアビリティとかは二度と未収得状態に戻らない……?」
「そうそう~。まあ、基本的には困らないから、どんどん習得しちゃって~」
基本的には、などという枕詞に、本当に大丈夫なのか不安にならざるをえない正樹。
佑梨にしても、ちょくちょく不穏なことを言ってのける命を、どの程度信用していいのか迷ってしまう。
「どっちにしても~、まずはステータス画面の習得を済ましちゃって~」
「「あっ、はい」」
命にせかされ、思いつく限りのやり方でステータス画面をオンオフする正樹と佑梨。
結局、ステータス画面の習得が終わるのに三十分ほどかかってしまい、今日中に異界の攻略に取り掛かれるのか、いやそもそもこの先やっていけるのかと、どんどん不安が募る正樹たちであった。
なんでソケットなのかとか、どうアメイジングなのかとかは作者にも分かりません。
何せ、ふっと頭に浮かんだ単語をそのまま使ってますので。
あと、スキルやアビリティになんでその分類なのかと突っ込みたくなるものが多々出てくるかと思いますが、そういうのは大体どっちが正しいか迷った末にダイスやフィーリングで決めているので、そういうものだと思ってください。
似たような仕様のゲームでも、スキルとアビリティの境界線があいまいなものはいくらでもありますし。
次回からは、基本的に今までの作品同様、土曜日の午前七時に投稿するようにします。




