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掌編・「小春日和に出逢った可愛い子」

作者: ゆめみるる


掌編・『小春日和に出逢った可愛い子』



  「朝練」とか「リハビリ」とか称して、近郊の商業地まで、毎朝バスに乗って出掛けて、殊更に歩き回って、鍛錬やらいろいろ耳目に見聞を蓄積刺激するという…否応なしにそういう習慣を余儀なくされて、非常に不便だが、メリットもなくはない…そういう生活の持続が、彼是1年近くになっています。


 闇雲に、「経験値」を稼ぐ…そういうコンセプト、行動目標であり、「当たって砕けろ」そういうヤケッパチな、方針で場当たり的に、人生の時、残り少ない時日を少しでも豊穣に彩ろうとしているのです…


 で、まあ、やはり日々に実にいろんなことがあって、…


 今日は、昨日は、かなりに冒険を試みてみた。


 朝、電車に乗るべくホームに向かうところで、ベンチに座っていた髪の長い若い娘さんが、サッと立ち上がってオレのうしろを「ついてくる」ような感じになり…車中でもなんだか不即不離に傍らに立っていてくれる。


 気になって観察していると、非常に可愛らしい。 肌はピチピチ。


 「可愛いですね」とか、声をかけようかとも思いましたが、その時は勇気が出なかった。


 で、いろいろ用足しをして、帰りの電車に乗ろうとすると、その娘がまた待合室のボックスで「オレを待って」いる…

 そういう風にどうも思ってしまうシチュエーションになった。 気がした。


 オレは障碍者で、喋り方がどうもぎこちないようなところがあり…

 で、躊躇したのだが、おそるおそる「朝もいたよね! もう帰るの?」と、軽薄に声をかけてみた。


 女の子は、「うん。」と、微笑んで、そうして目にもとまらぬ?という感じにずっとスマホの画面を指でたたいているのです。


 …一見は、わりとおとなしめの雰囲気の、平凡な、?だけど、会話をしながら、マルチタスクというのか? 手元でせわしなくスマホに文字を打っている…そういう感じが「ううむ…おぬし、できるな!」と言うのか、侮れないJK。と思いました。


 高校二年らしい…

 「おれさ~昔にD高校、2番で受かったんだぜ~今は精神病者やけど」

と、言ってみると、

 「へ~ すごいですね!」と、言って」くれました。


 これはホントの事実なんですが、一見がアホっぽいので、一応「アホでもないんやで~」と、釘を刺して?みたのです。


 昨日の11月8日は、ポカポカした暑いくらいの陽気で、所謂「小春日和」だった。

 

 オレたちアベック?のいる待合室は、温室のような透明のハコで、暑がりのオレはちょっといられない感じになってきたので、残念やったが、「じゃあね。ありがとう」と言い残してちょっと外に出ました。


 が、あんまりにも可愛い子で、惜しい気もする。

 「一期一会」「千載一遇」などと四字熟語が念頭に明滅したりして、

 また、引き返して、

 「友達とラインしてるんやね~? オレにもアイディー教えてくれへんか?」 とかまたカルイノリで言ってみた。

 女の子はあわてて手を振って、「それはダメです!無理無理」と、すげない。


 …帰りの電車では、女の子は、オレが前の車両に座ったのを見ると、後ろの車両に行ってしまった…


 オレは夏目漱石の「坊ちゃん」の、坊ちゃんが汽車で近所の温泉に入りに行くくだりを思い出していた。


「マッチ箱のような汽車だ。 ガタガタと、少し揺られていたかと思うと、もう降りなくてはならない。 道理で切符が安いと思った。 たった三銭である」


 オレの切符は190円でした。

 原宿でナンパするおじさんがJKに話したいからと何万円も出すという逸話を思い出したりもして、「安くついた失恋」と、オレは自分を慰めるのだった…


… …


 過去にも、「ナンパ」めいたことをした経験がないわけではない。


 長い間精神を病んでひきこもりで、隔離されていたような状態で、それどころでなく、…


 幼虫だったセミが7年ぶりに地上に出てきて、羽化して、なんか解放感で

燥いているような塩梅?

 セミはバルタン星人のごとくに無表情なので、?燥いているかどうかはわからんが、狭い地中で真っ暗闇の時よりは、天空を自由に飛び回りつつ、高歌放吟している状況のほうがなんというか、カタルシスの原始的な萌芽?そういうのはあるかも、です。


 動物行動学には「吝嗇の法則」というのがあって、英語に訳すと「minimum evaluate rule」とか?  要するに「動物の行動の解釈は最も低級なものを採用せよ」というのがあるそうです。


 で、「生き物は遺伝子のビークル」という発想にも繋がる感じもあります。


 だから、逆にファーブルの「昆虫記」とかは、綿密にムシを観察して、一見「ただの虫ケラ」のナンセンスな行動?にも神様の配慮、みたいな「本能のチカラ」が肌理細かく行き届いていて、それに気付いたファーブルが感嘆ばかりしている印象があって、そっちによりリアリティある気もするが、セミのそういう不可思議な習性にもナニカのオカルティックな意味があるのかもしれない。


 スカラベ、はフンコロガシのことで、エジプトでは神聖な昆虫とされて、紋章や美術品の題材になっている。  フンから生まれてくるというので「す再生の象徴」、「太陽のイコン」みたいに尊ばれた。


 そういう発想で、セミの習性を「艱難辛苦の尊さ」の教訓、錬金術的な、ある「大器晩成」という変貌やら「三日会わざれば刮目して待て」の、人間の成熟という現象の秘められた奇跡的な効果?


 そういうののシンボライズと見る…「豪奢の法則」を仮定したら、造化の神にはそういう意図があったやしれぬ。となるかもしれない!


 そう言えば佐藤春夫も羽化したばかりのみずみずしい翠色のセミの単眼を神様からの恩寵みたいに捉えるとか、そんな小説を書いていたことあった…

 

<了>

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