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88/88

88.決意

結局、葵の顔を見つめたまま俺は何もいえなかった。


そして時は過ぎようとしていた。

そう、俺はしがないプラネタリウムで

今日もご近所の常連さんからチケットをもぎっていた。


あの頃との違いといえば、

親父の席が空いたことだ。


俺は一人になった。

もう俺の誕生日を祝ってくれる人もいない。


ふとテレビを見た。

そこには……葵が映っていた。


葵が隠されていた帝一族として

ニュースになったのは、俺たちがヴェルグラスを

倒して間もない頃だった。


「葵様、留学のご予定。

福祉について学ばれるため、世界へ」


そんなニュースが流れてきた。


そう、もしかしたら手が届くかもなんて

思ったのも束の間だったわけだ。


完全に生きる世界が違ってしまった。

もしあの時、俺の気持ちを告げていたら。

いや、何かが変わったとは思えない。

だって帝の一族なんだぞ。


俺はプラネタリウムの中に入った。

ちょうど鷲座と琴座の話だ。


川を隔てて会えないなんて俺は耐えられない。

俺なら川を渡る。

どうしても会いに行く。



どうしても……。



俺は、川を渡る!

あ〜もういい!

溺れて引き返すことになったって

後から渡れていたかも、なんて思うよりいい!


ウジウジ考えていても何もかわらない。

もう言い訳ばかり探すことに飽きた。

ちょうど、今店を閉めたところで

困るお客も大していない。



葵が出発するのは明日だと言っていた。

今日ならまだ間に合う。


俺はプラネタリウムの扉を開け、

ロビーに飛び出した。



そこには……葵が立っていた。


「え?なんで?」



葵は何か言いたそうだったが、俺をじっと

見つめている。


そして口を開こうとした。



「待って! 俺から話す!


あの、その……俺は川を渡りたい」



「え? どういう意味?」


葵が問いかけた。


「耐えられない。俺は葵のそばにいたい。


見えない川に阻まれていても、

俺は川を渡る。

絶対に会いに行く。

そして二度と側を離れない。



不釣り合いなことは承知だ。

だから、釣り合う男になる。


つもりだ……」



「どうしてそこは弱気なの?」


「いや、なる。必ずなる。だから側にいさせてほしい」



俺は葵の目をじっと見つめた。



葵はもっていた鞄を放りだし、俺に抱きついてきた。


「もう釣り合っているじゃない。

私と同じくらい、拓海さんも私のこと好きだと思うんだけど」



俺は葵を抱きしめた。


闇との境界線は薄い。

ヴェールのように。


これからもヴェルグラスの声は誰かに聞こえるだろう。


だから一緒にいよう。

誰かの話し声があれば、ヴェルグラスの声はきこえない。


そして闇に落ちそうな人がいたら話しかけていこう。

これからも一緒に。




【完】



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