84.帰還
天澄界に戻った俺たちは王の前に通された。
五人の戦士、葵。
そして共に戦った仲間達は王の前にひざまづき、
ヴェルグラス討伐の報告を行った。
「大変な旅であったな。
本当に感謝する。疾風の事は申し訳なかった」
王は深々と頭を下げた。
「もう終わったことですから頭をあげて下さい。
思えば、あの人が一番、人らしいということだったのかも
知れません」
王は俺をじっと見つめた。
「確かに人の心はいつも悪と隣り合わせだ。
嫉妬、憎しみ、悲しみ……悪に落ちることは容易だ。
それは死んでも変わらない。
若い魂はまだ太楽国の者となんら変わらない。
疾風もそうだったのだろう。
この世界の境界線はとても薄い。
まるでヴェールの様に。
その薄い膜を超えてしまわぬよう、
人は生きていかねばならないのだ」
王は遠くを見つめる。
「これで戦いが終わったわけではない。
人が生きている限り、必ず悪は生まれる。
しかしそれを恐れてはならない。
それが、人 なのだから」
王は五人の戦士たちをじっと見つめた。
「さて、約束通り願いを叶えよう。
優輝、大地、晃。
其方たちは二度と太楽国に戻らない。
そうだったな?」
王は駿の前に立った。
「其方の願いは?」
「わ、私ですか?」
駿は突然の問いに驚き、何を答えようかと
悩んでいるようだ。
「王! 願いを変えてもよろしいでしょうか?」
優輝が王に尋ねた。
王は驚きもせずに優輝を見た。
「もちろんだ」
「私も……」
晃がそっと手を挙げる。
「ほう。では同時に言ってみよ」
優輝と晃は戸惑いながらも同時に口を開いた。
「もう一度、人として太楽国で生きさせて
いただけませんか?」
俺は驚き、優輝と晃を見た。
「どうして?」
優輝が答えた。
「私は誰にも必要とされていなかった。
だから生きる価値がないと思っていた。
でもこの旅でわかったの。
自分が変わらなければ周りは変わらない。
必要とされないなら、必要とされる人になればいい。
自分を必要としてくれる人を探せばいい。
生きる価値のない人などいない。
みんな同じなのだから」
優輝は初めて会った時とは違う、
強い眼差しで俺を見た。
「俺は自分で命を捨てました。
でもすみれや直。
もっと生きたい人がいるのに、俺は。
生きるのが辛かった。苦しかった。
でもそこから逃げるのではなく、
誰かに助けを求めれば良かったんだって
この旅でわかったんです。
昨日までは暗闇でも、
生きていれば闇が晴れる時が来るかもしれない。
だからもう一度、あの世界に戻って
苦しみに立ち向かってみせます。
そしてもう一度、すみれを探します」
王はわかっていたような表情で、
頷いた。
そして大地に尋ねた。
「では其方は?」
大地はふと後を振り向き、共に戦った仲間たちを
見た。
そこには弟の陸がいた。
そして……、
「千鶴子さん?」
千鶴子はにっこりと笑って、大地を見た。
陸は大地にブーメランを見せる。
「誰も信じられないと思っていました。
人が怖かったんです。でもそんな人ばかりじゃない。
今なら信じられる気がします。ここにいる仲間、そして……」
陸を見つめ、
「弟と生まれ変わったらブーメランで遊ぶ約束をしたので私も……」
王はにこりと笑い、駿の前に立った。
「決まったかな?」
「はい。私も……もう一度彼らと同じ世界で
やり直したいと思います。
今度は自分のためでなく、
誰かのために生きていきたいと」
王は初めからわかっていたのだろうか。
だからこの戦士たちを選んだ。
そして王は五つの珠について話始めた。




