83.さようなら
俺は倒れる母を抱きしめた。
一瞬、母が俺に目を向けた。
そして消えそうな声でこう囁いた。
「ありがとう。愛しているわ。
これからもずっと……」
そして、母の体の周りから
どす黒い煙が立ち込めた。
何も見えなくなり、煙が消えたそこには
獅子の死骸があった。
ふと前を向くと、母の姿と一人の男性の姿が見えた。
誰も気づいていないようだ。
俺にしか見えていないのか。
男性はきっと青月。俺の父親だろう。
大事そうに母の肩を抱いている。
エイクがピーと鳴いて、
父の肩に乗った。
「拓海。ありがとう。
私たちをもう一度、会わせてくれて」
母と父は見つめ合った。
「父さん、母さん……」
「ごめんね。あなたを死んだと思いこみ。
捨てた母を許して」
「多聞さんに全てを託した俺を憎んでくれていい。
だから真琴のことは恨まないでほしい」
もういい。
俺だってわかっている。
二人が俺を捨てたなんて思っていない。
だからもう、俺のことは心配しないでいい。
「俺は、幸せでした。多聞という親父のおかげで。
だから安心して。
でも会えて……良かった。
ありがとう。この世界を救ってくれて」
母は優しく微笑んだ。
「兄さんには感謝してもしきれないわね。
本当にこんなに立派に育ててくれて。
私たちはどこに行けるのかわからない。
でもどこにいてもあなたを見守っています」
父が俺を見つめていった。
「青い珠を背負わせてすまない。
だが、お前なら真実に辿り着いてくれると思っていた。
俺はずっとお前と一緒に生きている気がしていた。
だが今日でそれも終わりだ。
これからは真琴と生きる。
だからお前も愛する人を見つけてほしい。
苦しいこともあるだろう。
だがきっと、それ以上の幸せもあるのだから。
一人にするのが心苦しかったが、
仲間もできたようだ。
これで安心していける。
さようなら」
二人は微笑んで、その姿はどんどんと薄く透けていった。
エイクもそちらの世界に行くのか?
青月の肩から飛び立つことはなかった。
「さようなら……」
二人の姿はもうなかった。
気がつけば周りに戦士たちが集まっていた。
仲間がいる。
父はそういった。
愛する人を見つけてほしいと。
俺は葵を見つめた。
葵を守る。直を失った時、自分に言い聞かせた。
だが、いつしか俺のほうが守られていた。
葵の存在に。
この旅が終わる時、俺は葵に告げることが出来るだろうか。
このまま側にいたいと。
だが今はまだ、言えない。
クラリサを元の場所に戻し、
境界線の歪みを戻さなければ。
「行こう。王の元へ帰ろう」
俺は仲間達を見た。
仲間たちは頷いた。




