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82.真琴の最期

「葵さん、止めなくていいのか?」


大地が私のところへやって来た。


優輝、駿、晃も私のそばに集まる。

私は手に持ったクラリサから出来た弓を

真琴と呼ばれる女性に向けることを

躊躇している。



拓海さんが真琴へと向かっている。

止めるなら今なのかもしれない。


でも涙を流しながら息子の名前を呼ぶ女性。

どうしても悪には見えなかった。



もし、疾風からヴェルグラスが移り、

悪になるとしても、

その瞬間まで彼女の願いを叶えてあげることは

出来ないのだろうか。


私の中でその想いが強まる。

28年もの間、会えずにいた息子。

生まれてすぐに疾風に奪い去られ、

その理由も知らずに死んだと思っていた息子が

目の前にいる。


母親なら抱きしめたいに決まっている。


「もう少しだけ……待ってもらえませんか?」



私は戦士たちの顔を見た。


「しかし、もしヴェルグラスが乗り移ってしまったら

簡単に倒すことはできないかもしれない。


それに疾風の時とは違う。

拓海は母親が悪になった姿を見なければならない。


今、やるべきなのではないか?」



駿が私を見つめて告げる。



確かにそうかもしれない。


願いにより生み出されたもの、

真琴自身も悪になりたいとは思っていない。

そう母からも聞いている。


悪になる前に滅ぼすほうが、彼女のためなのか。

私は弓を構える手に力を込めた。



「葵さん。帝女様の娘様」



真琴がこちらを見て私の名前を呼んだ。



「お願いします。少しだけでいいのです。

少しだけ、息子をこの腕に抱き締めたら

私は逝きます。


だからお願い。

ほんの少しだけ時間をください」



真琴が涙を浮かべ私を呼ぶ。



「葵さん! 騙されたらダメだ。

もしかしたらもう彼女は……」


晃が私に訴える。


どうしたら……。




拓海が真琴のそばへ着いた。


真琴が腕を大きく広げる。

そして拓海を抱きしめた。


無理だ。

もう少しだけ。

拓海さんにも母の愛を知ってほしい。



その時だった。


「グエーーーーー」



到底真琴とは思えない声が薄暗い世界に

響き渡った。

低い、低い声。

それはヴェルグラスの声ととても似ていた。



抱きしめられていた拓海が

そっと真琴から離れる。


真琴の腹には拓海が持っていた剣が刺さっていた。



「なぜだ。お前の母親なんだぞ」



低い低い声が真琴の口から溢れる。

拓海を見て叫んでいる。



拓海が振り返り私を見つめて叫んだ。


「葵! 撃て! その矢で!」


拓海の目には涙が浮かんでいた。

だが、その目からは強い意志と決意が感じられた。



「彼女を刺したのは俺の中の父だ。

彼女を悪にしないでくれと俺に頼んだ。


彼女を連れていくと。

悪ではない世界へ。

だから、俺を信じて」




私は頷き、弓を構えた。


そして弓を放つ。



悲しい愛の果て。

嫉妬や憎しみを生んだ愛。

でも疾風も青月も真琴も、

ただ誰かを愛しただけだったのに。




放たれた矢は傷ついた真琴の心臓を貫いた。


真琴は倒れた。


拓海は目を閉じ、倒れる母を抱き抱えいていた。

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