81.俺の中の父
母に会いたいと思ったことは一度もない。
といえば嘘になる。
物心がついたころからずっと親父と二人だった。
だが寂しいと思ったことは不思議とない。
変な親父だったが思い出しても楽しい
思い出ばかりだ。
男二人の生活も悪いものではなかった。
心残りといえば、親父に孫を見せてやれなかったことだ。
……親父が本当の父親じゃないなんて
思ったことはなかった。
母親は俺が赤ん坊の頃に出て行ったと聞いていた。
薄情な親だ、よくも可愛い俺を置いて行けたな。
そう思ったことはある。
でもあの親父ならさもありなん?
なんて自分に言い聞かせていた。
そんな母親を恨むことはあっても
会いたいなんて思うわけがない。
今、俺の目の前で涙を流しながら、
俺の名前を呼ぶこの綺麗な人が
俺の母親?
そして本当の父親が太楽国の者ではないなんて
誰が想像できる?
この世界に来るまではそう思っていた。
本当の父親の記憶を、俺の目に埋められた青い珠が
見せるまでは。
互いに愛し合っていたことが痛いほどにわかった。
一人の男を嫉妬に狂わせ、ヴェルグラスにさせる
ほどの愛。
俺の目に残る父親の記憶。
目の前にいる母親を愛した記憶。
体中で感じる。
俺の中で父親が目の前の女性を抱きしめたいと
叫んでいる。
互いに愛し合いながら、
報われることがなかった愛が、
時を超えて、体を変えて今一つになろうとしているのだ。
真琴が近づいてきた。
「拓海。本当に私の息子の拓海なの?
夢を見ているのかしら。
会いたくて。会いたくて。
どんなに生きていることを願ったでしょう。
お願い。ここへ来て、抱きしめさせて」
心は行くなと告げている。
だが俺の体は真琴のほうへと近づいていく。
もう止めることは出来なかった。




