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75.ヴェルグラスの復活

扉を開けた。

いくつも、いくつも。


どんどん声が大きくなる。

間違ってはいない。

もうすぐだ。


「こっちだ。

クラリサを早く。さあ、願いは何だ?

早く、こっちだ」



ヴェルグラスの低い声は、どんどんと大きくなる。


もうすぐだ。もうすぐ願いが叶う。

28年、待ち続けた。


扉を開けた。


そこに……泉があった。


昏哭界の深い深い闇の中。


薄暗い霧の奥。

黒い水が湧き出ている。


まさに闇を象徴するかのような、

漆黒の水が。



何千年もの間に行われた愚業、悪行。

怨念、恨み。

それらが黒い液体となり、溜まった「最悪」の場所。



恐る恐る近づく。

水面に黄色い目が2つ光る。


「疾風よ。

クラリサを持ってきたのか?」


低い声が聞こえた。


「ここに」


私はクラリサを片手に持ち、見せようとした。


「待て。その光はワシの力を弱める。

何かに包んで投げ入れろ」


そうだ。赤・青・黄・緑・紫。

これらの光はヴェルグラスの力を抑えるため。

こんな小さな珠で悪の根源を封じ込めるとは。


どれほどの力を持つ珠なのだろうか。



「わかりました。

しかし願いを叶えてくれる保証をいただけませんか?」


「ほう。ワシが信じられないと?」


「そうは言っておりません。

そうでなければこんな危険を冒してまで

クラリサを奪ったりはしない。


ただ……」



「ただ?」


「全てを失ってここまで来たのです。

友も、愛する人も。

天澄界での地位も。


本当に願いが叶うという証拠を見せてもらうくらいの

権利はあると思うのです」


泉の中で二つの目が揺れる。


「願いを聞こう」


私は布に包んだクラリサをギュッと握る。


「まず、私の愛する人を生き返らせて下さい。

亡くなった時と同じ年齢で。


そして……」


「待て、お前の愛する人は、お前を愛して

いないようだぞ」


ヴェルグラスはククっと笑った。


私はそっと目を閉じ、そして大きく開く。


「理解が早い。私の願い、それは。

彼女は私を愛するのです。


出来るのでしょう?」



「ああ、できるとも。

人の心を変えることなど簡単だ。


だが、最初に言っておく。

どんなことにも完璧はない。

何かの拍子に元の記憶が戻ることがある。

心や記憶は体と違い、複雑でな」


まあいい。

記憶が戻ったとて、青月はいない。


今度こそ、側にいて、

いつか本当に俺を愛してくれればいい。



「わかりました。出来ますか?」


「約束する。クラリサが消滅すれば

この世の境界線は無いに等しい。


体を得れば、どこにでも行ける。自由だ。

そのためならどんな願いも叶えてやるさ」


クラリサを手に取った。


投げ入れたら平穏な世界は消滅する。

二度と戻ることはできない。



真琴を生き返らせて、共に生きる世界は

どんな世界なのだろう。

闇に支配されてしまうのだろうか。


ただどんな世界であったとしても

今より良いに決まっている。

一人で生きる世界は、

真琴のいない世界は闇と同然。

いや、どんな闇でも真琴はわが光。

光があれば生きて行ける。



さあ、ヴェルグラスよ復活するがいい!

そして俺の望みを叶えてくれ!



クラリサを投げ入れいた。

まばゆい光が一瞬、世界に放たれた。

真昼のような、いや、もっと明るい。

太陽の真下にいるかのような。



そして泡と共にブクブクと泉に沈んでいく。


霧が立ち込めた。

霧の中に、人影が見える。


「貴方は? 疾風様?」


真琴なのか?本当に?

信じられない。やっと、やっと……。



「疾風、言い忘れていたことがある」



ヴェルグラスの声が響く。


「投げ入れた者の願いは聞く。

だが……投げ入れた者の体はいただく」



「なに?」


「復活するためには体が必要だ。


お前の体をいただく。お前はこれから、

この世界の王となるのだ」


どういうことだ?

俺は真琴と共に生きるのだ。

王になるなど望んでいない。


悪の王になどなりたくはない。


「断る!」


「残念だ。断る権利はない。

心配するな。お前の記憶も少しは残してやる。


真琴という女を愛していたという記憶だけは。

お前の体を乗っ取った俺が

真琴とこの世界を支配してやる。


安心しろ」



ヴェルグラスの黒い影が俺の足元から

体の中に入ってくる。


嫌だ、嫌だ。

こんなこと望んではいない。


やめてくれ!



*********************



暗い闇の中。

漆黒の水が湧き出る泉に

疾風が立っている。


目が黄色く光る。


「真琴。愛している。

二人で、この世界を、闇にするのだ」



真琴は人形のような表情で疾風を見つめていた。


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